第18話:ミルクが美味しい?
ホフマン酪農のオヤジ・パウルからの相談は頭を悩ます。
酪農について漫画で読んだことはあるが、実際にやってみたことはなかった。
考えて答えが出てこない様子を見たパウルから、会合があるから一緒に来てほしいと頼まれた。
*
会合は近隣の街の酪農家たちの懇親会だった。
そこで話を聞くと、販売もホフマン酪農と同じように直接店に納品している者や、台車を引っ張って街の広場で手売りしている者。
そして、ほとんどが味とか考えずに販売しているらしい。
栄養価が高いから、親は子供に飲ませようとするが、子供はミルクを嫌う、というのが何十年も当たり前になっている。
会合と言っても飲み会に近いものだった。その中、ミルクを使った美味しい飲み物を味わい、何とか良いものを提供したいという思いのパウルだけが、必死に会場の者たちを説得していた。
「俺たちは嫌われてるけど、栄養価が高いから国も補助してくれるし、これ以上頑張らなくていいんだよ」
そう諭してくる年寄り者が大半で、あとは若い人は感心があるけど、伝統的に続けてきた親が許さないのではと言っている。
宴もたけなわになってくると、関係者ではない俺にからんでくる奴も出てくる。
「ちみはなんでここにいるのかなぁ?」
「はぁ」
「はぁじゃなくてぇ~。部外者じゃないのぉ? 飲んでるぅ?」
俺も来たくてきてるわけではない。何かヒントが無いかと思ったんだけど、このやる気のなさは何ともしようがない。
からまれているのを見つけたパウルが戻ってきた間に入った。
「か、会長! 悪酔いは良くないですよ。」
まぁまぁと落ち着かせるが、この絡んでくるのはこの会の会長だったのか……。どうしょうもないなぁ。
「それで、前に少し話ししましたニコーレを助けているのは、こちらのタナカさんでして」
その会長は、タナカであることを聞いたことで、ふらつく体を我慢して、ウッと口から飛び出しそうなブツを抑えて、俺に詫びを入れてきた。
事前に話を通してたなら、さっさと紹介してもらいたかった。面倒な酔っ払いのからみをされなかったのに。
「そうか、君がタナカだったか」
ニコーレは喫茶と農園の両方あり、この会長は両方の話を聞いていたようだ。
すでに4週間ほどたっているので聞いてたとしてもおかしくはない。
「こんな姿で申し訳ない。お礼を言わせてもらうよ」
ということだったが、ミルクを美味しく飲むということには懐疑的のようだ。
「わしらも子供の時から飲んでるけど、ミルクは基本的に子供には嫌われる飲み物なんだよ。独特の生臭さというか……」
おいおい、業者自ら言うことじゃないだろう。と突っ込みたかったが、それが当たり前ということなんだろう。
実際、そのまま飲むとおなかを壊すし、美味しくない。俺も得意ではない。だからこそ美味しく飲んでもらおうというのが業界の努力じゃないのか?
「会長は喫茶ニコーレのタピオカミルクティーは飲まれましたか?」
パウルの問いかけ会長は首を横に振る。
「お茶とミルクって組み合わせだけで美味しいはずがない。ましてやその聞いたこともないタピオカというものは何だね」
元の埃っぽいお茶や、生臭いミルクならそうかもしれない。だが、淹れ方も変えて、ミルクも煮沸して安全に飲めてマイルドにしたものは美味しい。
「それがですね、意外なその組み合わせが美味しいんですよ」
パウルは引き下がらない。ここを陥落させるとミルク業界が変わる。そして喜ばれると信じている。
「この街で会合があったのも、タナカが参加してくれているのも何かの縁です。明日の朝、喫茶ニコーレまで一緒に来てもらえませんか?」
「明日朝か……帰る時のついででいいかね?」
押しに負けて会長も了承した。無駄足は嫌なので、せめて帰り道のついで、ということのようだ。
「ありがとうござます。タナカ、明日朝の開店前の納品時に飲みたいって伝えてもらっていいか?」
俺は、会合が終わるのを待たずに街に戻った。
まだ明かりがついていたので喫茶ニコーレに寄って、ホフマン酪農がなぜ納品量が減ってたのか、明日朝にミルクの会長が来ることなったことを伝えた。
ヴェルナーもアンドレアも事情を了解して、明日朝はしっかりと提供することを誓った。
さらに良いミルクを手に入れられるかどうか、明日朝にかかっている。
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