第11話:芋は無限大
喫茶店ニコーレの店主ヴェルナーの奥さんニコーレの農家から芋屋「いもや」に納品されている芋は2種類あった。タロイモと、キャッサバ。
いままで、タロイモは他と同じように焼いていたが、キャッサバは毒があるので廃棄していた。
喫茶店が経営不振なので、仕送りを増やしたいがため、ニコーレからもっと多く納品させてほしいという要望がある。
しかし、仕入れの半数近くのキャッサバは廃棄せざるを得ず、その選別の手間を考えると、仲が良い関係とはいえ、トーマスも即答で了承できなかった。
キャッサバと言えば、元の世界にいたときにブームになったことがあるタピオカの原料である。
トーマスから聞くところ、皮と中心部分に毒があり、食用には向いてないので処分していたとのこと。
一つもらって縦に切ってみたところ、中心部分に黄色い筋がある。
この世界は、奇妙なクリーチャー以外前の世界と大きな違いがない。特に食べ物に関してはほぼ同じなので助かることが多い。
このキャッサバもたぶん同じものだろう。なのでそのまま食べる勇気はない。
トーマスに聞いたところ廃棄予定なので自由にして良いとのことだったので、厚めに皮を剥いて、中心を取り、数時間茹でて、水に漬けて一晩倉庫に置かせてもらうことにした。3回ほど水を換えること、朝になったらすり下ろして水に晒しておくようにお願いした。
「問題なければ、これで食せるようになるはずだけど――」
そう言ってトーマスを見たら、すぐに体を強張らせる。
「いや、俺は食わねぇよ!」
毒性が強いことはわかっているということは、過去にだれか亡くなっているのだろうか。奥さんも首を振っている。
「わかったよ、俺が食うから、水の交換とすり下ろすのを頼んでいいかな?」
「まぁ、それくらいならいいけど……本当に食うのか?」
やれやれ、仕方がない。17歳の若造が大丈夫って言っても信用できるものではない。たぶん俺も嫌だ。でも食ってみないとわからない。
「あぁ、そうだね。たぶん大丈夫なはず……」
「……一応医者は用意しておこうか?」
「一口食べて倒れたらお願いしようかな……」
不安になるが、17年、旅に出て1年、色々なものを食べてきたが、俺がいた日本と変わらないと思ったので、何とかなりそうな……ならなかったらまた他に転生できればいいのかも、そんな複雑に思いながら、この世界で生きていくためにはできる俺を見せないと信用されないだろうし……いや、どうでもいいか。何とかなるだろう。
「完成したら、もらっていっても大丈夫か?」
「あぁ好きにしな。俺は食わねえから」
「ありがたい。で、キャッサバはさておき、タロイモの方も考えようか。ニコーレ農園から仕入れを増やすことが喫茶ニコーレとヴェルナーと娘のアンドレアを助けることになるから」
タロイモの料理の方法で触感も味も変わるというのを、先ほどサツマイモとジャガイモ、ヤマイモで説明したと同じように伝えたら納得した。
タロイモはアイスに加工しても結構美味しい。粘り気と食物繊維で、たぶんこの世界の女子にも受けること間違いないはず。
芋をアイスにするという発想がなかったようで、トーマスと奥さんは驚いていた。
ついでに焼きで美味しい他の芋の食べ方も伝えた。
鉄なべに石を敷き詰めた上にサツマイモを乗せて、1時間ほど蒸し焼きにすると、ほくほくで甘味が増す石焼き芋もどき。
ヤマトイモを擦って粘り気を出して、香味野菜や肉や魚など好みのものを入れて焼く、お好み焼きもどき。
干し芋にしたりと、芋は無限大にある。
「俺の好みを言うと、揚げた芋はほくほくしてて好きなんだけど、時間が経つと急激に味が落ちるのが良くないので、できれば店頭で食べてもらうようにするのがおすすめかもね」
これだけ作って美味しさを体感させると、いかに重要かということを理解してもらえた。
「これでこの子のためにもお金を貯められるね」
娘を抱えていた奥さんの言葉に、トーマスは少し涙を浮かべて頷いた。俺もちょっと感動を分けてもらえた。伝えられてよかった。
しかし、こんな感じで前の世界の経験が生かせると思わなかった。雑誌のランキング記事を作ったとき、色々と自分たちでも作ってみようというネタ記事の経験が生きている。まったく人気のない記事だったので、俺に対する編集部の風当たりが強かったのは覚えている。なんでも下働きとはいえやっておいて良かったと思った。
「タナカ、ありがとう。これでニコーレ農場からの仕入れを少し増やせることができるよ! どういう感謝というか、報酬にしたらいいんだろうか」
感謝してくれるトーマスを少しなだめた。
「まぁまぁ、さっきのキャッサバが上手くいけば、もっと面白いことになるから……感謝と報酬は、そのあとでね!」
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