第28話 道標ない旅-28

 五十六は一瞬ぞくりとした。そして、一歩引くんだ、罠の奥まで入るまでは近づいちゃだめだと、自分に言い聞かせながら書き進めた。



*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 おれがこの学校に入ったのは、

  わりと近かったっていうのが理由のひとつ。

  家から一番近い上岡中は、マンモス校で、

  学校が荒れてるっていう噂があったから、他へ行けたらって思ってた。

  学費が普通の私立よりずっと安いから親も文句言わなかったし。

  受けてみたら受かったし。


 あと、もうひとつ。

  変な学校だって聞いたから。

  どう変かって言われてもよくわかんないんだけど、

  ただの進学校じゃないってこと。


 でも、実際、入ってみたら、

  成績は張り出されるわ、

  補習は多いわ、

  みんな頭はいいわ、


 ただの進学校じゃねえかって思ったこともあったけど、

  由起子先生みたいな先生もいるしね。

  前にも言ったけど、

  野球部のイチローや新聞部の中川なんてのが、野放しになってるなんて、

  驚いちゃうね。

  ほとんど無法地帯じゃない?


 そう思わない?


 山本五十六                               


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*

     ・

     ・

     ・

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 五十六さん、


  学校が楽しそうでいいですね。

  わたしは、学校が嫌い。

  家も嫌い。

  わたしは、勉強が苦手だし、数学なんて見たくもない。

  家でも、トロいからよく叱られます。

  好き嫌いも多いから、ちっちゃいんだって、叱られます。


 ずっと、

  夢を見ていたいです。


 ずっと、

  ベルたちと冒険していたいです。


 大人になりたいと思いません。

 小学校の頃、もっと前でもいいから、戻りたいといつも思ってます。


 わたし、どうしたらいいんでしょうね。

  ベルに助けてもらいたい。

                   ドリフレ


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*



 五十六はやばいと思って手が動かなくなった。

 誘導尋問に入る前に、この子を追い詰めてしまった。どうする?


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 ドリフレちゃんへ


  随分悩みがたくさんあるみたいだけど、

  おれからひと言。


 ファンタジーは、たくさんの子供や大人に夢や希望を与えます。

  おれだって、小さいころは昔話が大好きだった。

  きっと今の子供たちも好きなんだ。

  きっと将来生まれてくる子供たちも好きなんだ。


 ドリフレちゃんには、その才能があるじゃない。

  勉強は、そのための勉強だと思えばいいと思うよ。

  アーサー王がどんなだったか、とか、

  マリーアントワネットがどんなだったとか、

  やっぱり勉強しなきゃわかんないじゃない?

  平安京時代の事でも、勉強しないとわかんないじゃない。

  数学なんて、おれだって嫌だ。


 勉強は、好きなのを徹底的にやって、

  あとはテキトーに、ってのがおれのポリシー。


 変かな?


 山本五十六                               


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     ・

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 五十六さん、ありがとう。


  本当にいい人ですね。

  わたしは、本はたくさん読むんです。

  国語も好きです。

  でも、ママが怒るんです。数学の成績が悪いって。


 わたしもベルや五十六さんみたいになれればいいのに。

                   ドリフレ


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     ・

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     ・

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 ハッハッハ。ハハのハ。


 ドリフレちゃん、そいつは大変だ。

  ベルみたいになるのはいいけど、

  おれみたいになったら、だめだよ。

  チビでスケベで、いいとこなしなんだから。


 な、わかる?


 山本五十六                            

   

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 五十六さん、そんなこと言わないでください。

  五十六さんはいい人です。


 ベルは、わたしが作った空想の動物です。

  魔法も知ってます。いろんな乗り物に乗れます。

  でも、夢のなかだけなの。


 五十六さんは、夢の生き物じゃないのに、すてきです。

                   ドリフレ


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