第26話 道標ない旅-26
土曜日、五十六は帰宅を装って、美弥たちと校門を出た。いつもの辻で別れて、それから遠回りをして学校に戻った。こっそり作っておいた合鍵で視聴覚室に入ると、内側から鍵を掛けた。
時間は一時半を回っていた。戻ってくる途中で買ったパンを頬張りながら、五十六は計算していた。
一時半から補習で、五十分。この部屋に入ってくるのが、早くても二時二十分。まだまだ時間はある。そう思いながらコンピューターを立ち上げ、音声ボリュームを最低にした。部屋の電気も点けてない。外からは気づかれないはずだった。閉じられたブラインドの向こうには、バレーボールコートがあるが、今日は誰も練習していない。守衛さんが昼間に回ってくることはない。ただ、誰か先生が来るかもしれない。五十六は、荷物を部屋の端の机の下に隠して、すぐに見えないようにした。モニターだけ切れば、ぱっと見ただけでは、コンピューターが動作しているとは見えないだろう。自分の隠れる場所も探し、イスを適当に動かして隠れやすくした。準備周到、そう思いながらメールソフトを起動した。メール到着のダイアログが表示されたが、音声は出なかった。
よし、と思いながら、五十六はメールを開いた。時刻は二時十五分。そろそろ、いいかなと思いながら、文章を読んだ。
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
五十六さんへ
こんにちは、まだ早かったですか?
とても、待ち遠しくて、
ちょっと早いかなって思ったけど、
送らせてもらいました。
最近、五十六さんのことばっかり考えています。
わたしの夢に五十六さんが出てきます。
といっても、わたしが出してるんですけど。
ごめんなさい、変なこと書いて。
お返事ください。
ドリフレ
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
五十六は返事を書いて、ツールバーに表示された時間を見ながら待っていた、送信する時間が来るのを。二時二十六分、もういいだろうと思って返信した。
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
ドリフレちゃんへ
お待ち遠さま。
遅くなってごめんね。
ちゃんとメールが来てたので、
とってもうれしいよ。
本当は、おれの方が先に送ろうと思ってたのに、
先を越されちゃったな。
返事おくれ。
山本五十六
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
ほどなく、返事が届いた。五十六はいけるという感触を感じながら、返事を書き出した。
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
五十六さんへ
お返事いただいてありがとう。
本当に来てくれたんですね。
もしかしたら、いないかなと思ったんだけど、
よかったです。
ドリフレ
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ドリフレちゃんへ
さてさて、さっきのメールを見て驚いちゃったよぉ。
だって、おれが、夢に出てる?
じゃあ、おれも友達なの?
うれしいな。
でも、おれの顔知らないだろ?
知ってたらきっと夢には出さないよ、たぶん。
ね、ベルたちとどんなことしてるの?
教えて。
山本五十六
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