第21話 道標ない旅-21

 チャットを閉じて、誰からともなくため息が漏れた。

「失敗だったな」健太郎

「まださ。これからさ。大切なのは、アフターケアだって、言ってたじゃないか」五十六

「でも、なんってのかな、気が抜けたよ」翔

「俺も。こんなことなら、普通のチャットパーティの方がよかったな」健太郎

「それは、また今度。ね、五十六、メール送ってみたら?」美弥

「ん、今日はやめとこう」五十六

「どうして?」美弥

「罠に掛かるのを待つんだ」五十六

「そ…うね」美弥

「不特定多数に見せかけたメールなら、月曜でもいいよ。次のチャットのスケジュールが決まってからでもいい。そうじゃなきゃ、不自然だろ」五十六

「そうね、そう」美弥

「じゃあ、俺らは先に帰るわ」健太郎

健太郎と翔が立ち上がった。

「なによ、一緒に帰りましょ」美弥

「俺らだけ電車だろ」健太郎

「そこまでならいいじゃない。ね、五十六」美弥

「いや、おれはホームページのチェックするから、もう少し残るよ」五十六

「そう。ユッコ帰ろう」美弥

「うん。五十六先輩。がっかりしないでください」由貴子

「いいね、ユッコだけだ、おれにやさしいのは」五十六

「違うって、どうせこいつひとりでスケベ画像にアクセスするつもりなんだろ」健太郎

「健太郎。このあいだ、カラープリンターで打ち出してたのはなんだったんだ」五十六

「ば、ばかやろう!あれはだな、プリンターの調子がおかしいから、テストしてただけじゃないか。おかしな言い方するな、誤解されるだろう」健太郎

「まぁ、そういうことにしておこう」五十六

「ユッコ、帰ろ」美弥

「美弥ちゃん、ほんとだよ。ユッコちゃんも信じて。バカヤロウ、おまえのせいだぞ」健太郎

「おれは別にポルノとは言ってないぞ。なんだったんだ、って訊いただけだ」五十六

「うるせえ。帰るぞ、翔!」健太郎

「じゃあな。五十六、気にするな、きっとメールは来るよ」翔

「ああ」五十六


 ひとり残された五十六は、ゆっくりとメールを開いた。気づいていた、チャットパーティの途中で送られていたメールを。五十六は、メールが画面に広がると食い入るように見つめた。






*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 五十六さんへ


  このメールに気づいてくれますか?

 誰もアクセスしてきませんね。

  五十六さんたちが困っているのが見えるようです。

  わたしが、アクセスすればいいんだけど、

  知らない人とは話しにくいので、

  五十六さんにだけ、メールで送ります。


 きっと、見てる人はいると思います。

  ただ、わたしみたいに、参加できない人たちだと思います。

  どうしてと言われるかもしれませんが、

  だって、メールでも知らない人と気軽に話すなんてできません。

  けんたさん、を悪い人だとは思いませんけど、

  でも、話しづらいです。


 誰か早くメッセージ送ってくれればいいですね。

                   ドリフレ


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*



 五十六はふうっと息を吐いた。失敗か。と、メール受信のアラートが鳴り、ダイアログが表示された。はっとして差出人を確認すると、『ドリフレ』だった。五十六は慌ててメールを開いた。



*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 五十六さんへ


  続けておじゃまします。


 ついに誰も来ませんでしたね。

  残念でした。


 みんなこの学校に興味がなかったんでしょうか?

  変ですね。

  この間は色々と質問があったのに。

  もう、飽きたのかな?


 メールでもいいですか、質問しても?

  この学校のホームページの写真は誰が撮ったんですか?

  色々な角度であっちこっち撮ってありますけど、

  プロのカメラマンの人に頼んだんですか?

  とってもきれいに写ってます。


 それから、ごめんなさい。

  ずっと、見てたのに参加しなくて。

  やっぱり、わたしだめなんです。

  ごめんなさい。

                   ドリフレ


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*



 五十六は読み終えてすぐに返事を書いた。

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