第20話 道標ない旅-20
異常に緊張感が漂う中で、五十六はサーバーマシンを調整していた。その他のスタッフも一人二台のコンピューターをセットアップして待機していた。二回目、しかも相手はたった一人のはずなのに、みんな以前より緊張していた。
コンピューターの時計が開始時刻を示した。四人が一斉にメッセージを送った。
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(5.56)ようこそ、緑ヶ丘学園へ。
(6.ミヤ)ようこそ、緑ヶ丘学園へ。
(7.けんた)ウェルカム。緑ヶ丘学園へ。
(8.YUKKO)緑ヶ丘学園へいらっしゃい。・・
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しかし、時間が経っても誰もアクセスしてこなかった。しめた、と五十六が合図を送ると、みんな同じ意見で目で合図を返した。
時間が静かに経っていく。
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(7.けんた)誰か見てませんか?見てたら、どうぞアクセスして下さい。
(8.YUKKO)メッセージ下さい。。。
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淡々と時間が経過していく。五十六は、それを見て、みんなに言った。
「おい、もしあの子がアクセスしてきても、他のネームにアクセスしなくてもいいよ。たぶん、誰も見てないから」五十六
「そうね、もしアクセスしてきても、たいしたことないかも」美弥
「でも、あの子も見てるのかな」健太郎
「見てる、たぶん、見てる」五十六
三十分を経過しても、誰も現れなかった。緊張感がどんどん昂まってきた。健太郎が気を紛らすかのように、メッセージを送り続けた。
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(7.けんた)誰もいないの?何か、質問下さい。
(7.けんた)下らない質問でもいいよ。ちょうだい!
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しかし、返事はなかった。四十五分経過してしまった。
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(7.けんた)私はけんたです。本名は健太郎です。スポーツは好きです
が、クラブはやってません。今はコンピューター一筋です。
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カタカタと美弥も何かを打っていた。しかし、それをチャットには送らずに消去した。由貴子も何かを打っては消して、結局送らなかった。五十六はじっと待っていた。
「おい、五十六。だめなんじゃないの」健太郎
「かもね、ぎ」五十六
「なに言ってるのよ」美弥
「こっちから、メッセージ送ったらだめなの?」由貴子
「直接名指しでか。だめだよ、そんなの。とにかく表向きは不特定多数を相手にしているように見せなきゃ」五十六
由貴子はそうねと言いながらまたモニターに目を向けた。
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(7.けんた)最近数学がだんだんわからなくなってきて、困ってます。
いい勉強方法はないですか。教えてください。
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あと十分を切って、健太郎はワープロを打つ手が止まった。
「あー、だめなのかな」健太郎
「まぁ、いいじゃない。後でメールを送っておくよ」五十六
「でも、本当は見てないんじゃないの。何か事情があって」翔
「いや、たぶん、見てる」五十六
残り五分。それでも、誰もアクセスしてこなかった。カウントダウンかと言いながら、健太郎は席を立ち上がった。たしなめる美弥の言うことも聞かず、ストレッチ運動をしている健太郎に変わって翔が席に着いた。
「ぇと、『数学なんか、嫌いだ。数学が好きなやつは、頭がおかしいんじゃないか』」翔
「おい、翔、俺の名前でそんなの送るな」健太郎
「まだ、送ってないよ。ラスト十秒くらいで送るんだ」翔
「ばか言ってないで。もうそろそろラストメッセージの準備しないと、送れないわよ」美弥
美弥の台詞で、健太郎も翔を押し退けて席に着き、みんなと同じように最後のメッセージを打ち始めた。
「いい、そろそろ送るわよ」美弥
美弥の声に、みんな力なく返事した。最後の一分を切ったとき、一斉にメッセージを送った。
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(5.56)残念ながら時間です。さようなら。
(6.ミヤ)今回は誰も来なくて、残念でした。さようなら。
(7.けんた)メールでいいから、数学が好きになる方法教えてね。さよなら。
(8.YUKKO)さようなら。またいつか。
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