第20話 道標ない旅-20

 異常に緊張感が漂う中で、五十六はサーバーマシンを調整していた。その他のスタッフも一人二台のコンピューターをセットアップして待機していた。二回目、しかも相手はたった一人のはずなのに、みんな以前より緊張していた。


 コンピューターの時計が開始時刻を示した。四人が一斉にメッセージを送った。


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 (5.56)ようこそ、緑ヶ丘学園へ。

 (6.ミヤ)ようこそ、緑ヶ丘学園へ。

 (7.けんた)ウェルカム。緑ヶ丘学園へ。

 (8.YUKKO)緑ヶ丘学園へいらっしゃい。・・


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 しかし、時間が経っても誰もアクセスしてこなかった。しめた、と五十六が合図を送ると、みんな同じ意見で目で合図を返した。


 時間が静かに経っていく。


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 (7.けんた)誰か見てませんか?見てたら、どうぞアクセスして下さい。

 (8.YUKKO)メッセージ下さい。。。


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 淡々と時間が経過していく。五十六は、それを見て、みんなに言った。

「おい、もしあの子がアクセスしてきても、他のネームにアクセスしなくてもいいよ。たぶん、誰も見てないから」五十六

「そうね、もしアクセスしてきても、たいしたことないかも」美弥

「でも、あの子も見てるのかな」健太郎

「見てる、たぶん、見てる」五十六

 三十分を経過しても、誰も現れなかった。緊張感がどんどん昂まってきた。健太郎が気を紛らすかのように、メッセージを送り続けた。


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 (7.けんた)誰もいないの?何か、質問下さい。

 (7.けんた)下らない質問でもいいよ。ちょうだい!


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 しかし、返事はなかった。四十五分経過してしまった。


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 (7.けんた)私はけんたです。本名は健太郎です。スポーツは好きです

 が、クラブはやってません。今はコンピューター一筋です。


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 カタカタと美弥も何かを打っていた。しかし、それをチャットには送らずに消去した。由貴子も何かを打っては消して、結局送らなかった。五十六はじっと待っていた。


「おい、五十六。だめなんじゃないの」健太郎

「かもね、ぎ」五十六

「なに言ってるのよ」美弥

「こっちから、メッセージ送ったらだめなの?」由貴子

「直接名指しでか。だめだよ、そんなの。とにかく表向きは不特定多数を相手にしているように見せなきゃ」五十六

由貴子はそうねと言いながらまたモニターに目を向けた。


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 (7.けんた)最近数学がだんだんわからなくなってきて、困ってます。

  いい勉強方法はないですか。教えてください。


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 あと十分を切って、健太郎はワープロを打つ手が止まった。

「あー、だめなのかな」健太郎

「まぁ、いいじゃない。後でメールを送っておくよ」五十六

「でも、本当は見てないんじゃないの。何か事情があって」翔

「いや、たぶん、見てる」五十六

 残り五分。それでも、誰もアクセスしてこなかった。カウントダウンかと言いながら、健太郎は席を立ち上がった。たしなめる美弥の言うことも聞かず、ストレッチ運動をしている健太郎に変わって翔が席に着いた。

「ぇと、『数学なんか、嫌いだ。数学が好きなやつは、頭がおかしいんじゃないか』」翔

「おい、翔、俺の名前でそんなの送るな」健太郎

「まだ、送ってないよ。ラスト十秒くらいで送るんだ」翔

「ばか言ってないで。もうそろそろラストメッセージの準備しないと、送れないわよ」美弥

 美弥の台詞で、健太郎も翔を押し退けて席に着き、みんなと同じように最後のメッセージを打ち始めた。

「いい、そろそろ送るわよ」美弥

 美弥の声に、みんな力なく返事した。最後の一分を切ったとき、一斉にメッセージを送った。


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 (5.56)残念ながら時間です。さようなら。

 (6.ミヤ)今回は誰も来なくて、残念でした。さようなら。

 (7.けんた)メールでいいから、数学が好きになる方法教えてね。さよなら。

 (8.YUKKO)さようなら。またいつか。


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