第13話 道標ない旅-13
放課後、2年B組の教室で五十六と美弥が居残って思案していると、掃除当番を終えた由貴子が現れた。今日はサークル活動のない日だったので、教室で話をすることにして、昼休みに由貴子に伝えておいたのだった。翔と早樹はクラブに行ってる。健太郎はまだ機嫌が悪い。幸いなことに、三人で話し合うチャンスができている。ただ、視聴覚室で話をしていると、クラブを終えた翔か早樹が来ないとも限らないので、教室で何気なく話をしている風を装うことにした。
三人はこれまでのメールのやり取りを見ながら、考えた。
「返事はこんなもんでいいだろう」
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
ドリフレさんへ
お返事ありがとう。
われわれとしても、
全国から、
アクセスしてきたのは驚きでした。
これもみなさんのおかげです。
ありがとうございました。
また、ご意見ください。
あとは余談。
私の名前がカッコイイって言ってくれて、
ありがとう。
『ドリフレ』っていうのも、ユニークだよね。
「Dream is my friend.」ていうことだけど、
どんなお友達なの?
今度教えて、ね。
それじゃあ、またね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
緑ヶ丘学園2年B組
コンピューター研究会会長
山本五十六
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
「うん。このくらいで。…でも、これで返送してくれるかしら」美弥
「あんまり露骨に、返事くれ、って書けないんだ。わかるだろ」五十六
「これで、次の返事を待つの?」美弥
「あと、しばらくしてからチャットの案内を出す」五十六
「チャットパーティは、きっと見てるわね、この子」美弥
「その後の返事も待つのね」由貴子
「そう。それは、きっと返事をくれる。あと…」五十六
「まだあるの?」美弥
「リスクをともなうかもしれないけど、ニセのチャットパーティを開く」五十六
「えっ、それ…」美弥
「ニセって?」由貴子
「つまり、この子のためだけに開くパーティだ。この子にだけ、チャットパーティの案内を出す。そして、この子だけがアクセスするチャンスがある」五十六
「でも、それって、無理でしょ。この子は誰かが見てるかもしれないから、チャットには参加できないんだって書いてあるじゃない」美弥
「だけど、誰も参加してこなければ、この子も参加してくるかもしれない」五十六
「つまり、白紙のログを見て、参加してくるかもしれないってこと」美弥
「そう。例えば、1時半に開始して、三十分以上誰もアクセスしてこなかった。すると、気の毒に思ってアクセスしてこようとする。だけど、勇気がでない。だけど、そのまま誰もアクセスしてこなかったら」五十六
「最後に、ちょっとだけ参加するかもしれない」由貴子
「そんなに、うまくいくかしら」美弥
「いま考えられるひとつの手だってことさ」五十六
「でも、どうかしら。そのチャットをこの子専用にすることはできないわ。誰かが見てる可能性もあるじゃない」美弥
「その点だ、時間の設定が問題になるんだ。こないだと同じ時間じゃ無理だ」五十六
「それに、パーティを開いてなくても、アクセスしてこようとする人もいるわ」美弥
「閉じてあっても、アクセスしようとする物好きはいる。たまたま、開いてみて、やってれば、アクセスしてくることもある。それが、この子のためだけのパーティであっても」五十六
「授業中は無理よね」美弥
「おれたちが、さぼるのはかまわない」五十六
「だめよ」美弥
「だけど、この子は、一応学校には来てるみたいだから、ダメだ」五十六
「登校拒否なら、まだ策はあるのね」美弥
「土曜日は、試しにアクセスしようとするバカもいるだろう」五十六
「平日の夕方?」美弥
「このメールの時間を見てみろ。五時半だ。つまり、放課後一時間くらいかかって帰ってるとも見れる。おれたちがこの部屋を使える時間とギリギリのところだ」五十六
「日曜は、この部屋は使えないものね」美弥
「そこが同好会の扱いの辛いところだよ。顧問ったって、善意で名前を貸してもらってるだけだから、迷惑を掛けるわけにいかないしな」五十六
「…ねぇ、五十六。やっぱり、メールしかないんじゃないの」美弥
「…ーん」五十六
「メールだったら、個人のプライバシーも保てるし。この子も気兼ねなく話してくれるかもしれないわ」美弥
「ただ、人の目に触れないようにこの子は生きてるんだ」五十六
「え?」美弥
「いつまでも、そのままだと何も話してくれないような気がする」五十六
「…ん」美弥
「一度でも、人目のあるところで話せば、その後はメールでも話してくれるだろう」五十六
「うん」美弥
「このままメールのやり取りしてても、きっと、肝心のところは伏せたままだろう。ね」五十六
「でも、チャットは、無理よ。万が一、誰かがアクセスしてきた時点で、全部がおしまいよ」美弥
「…ん」五十六
しばらく無言が続いた。
「メール待ちましょう。それと、次のチャットパーティを早くする、それがいいわ」美弥
「OK」五十六
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