第11話 道標ない旅-11

 「ふぅ~、終わったぁ」健太郎

健太郎がそう言いながら伸びをすると、イスのコマが回って健太郎は引っ繰り返った。部屋が笑いに包まれ、緊張感が一気に溶けた。

「うまくいったわね、五十六」美弥

「まぁまぁだな」五十六

「合計で、5人のアクセス。同時アクセスは3人だったから対応も楽だったし」健太郎

「でも、なんだな。オンラインとはいえ、いま送られてきたメッセージを読んで、ワープロ打って、送信して、また帰ってくるまでの時間のギャップが、なんとなく間が抜けてるよな」翔

「そのあたりが、チャットの面白いところで、本当なら時間を気にせず延々とやってるものなのさ」五十六

「でも、そんなに長時間学校のコンピューターも使えないし」美弥

「そう、そういうのは、個人で楽しんでもらえばいいんだ。今回は、学校の紹介をメインに行ってるんだから」五十六

「あれ、そういうつもりだったの?」美弥

「もちろんじゃないか、美弥ちゃん」五十六

「また、すぐに後ろに回るんだから」美弥

「でも、高校生の人からアクセスしてくると思わなかったわ」早樹

「泉央学園って、野球の強いとこでしょ。甲子園に何回も出てる」美弥

「由起子先生はあそこの学校行ってたんだろ」健太郎

「へぇ、そうなの」早樹

「そのとき、甲子園に出たんだよ」健太郎

「えっ、女子は出れないでしょ」早樹

「いや、だから学校がさ。由起子先生は練習と練習試合くらいに出てたんだよ。でも、一番上手かったんだって」健太郎

「残念ね、甲子園に出れなくて」早樹

「でも、こいつ、結構まともなヤツみたいだな。まともな質問しかしてこなかった」翔

「そうね。思ったより楽だったわ」美弥

「後は、宮本中学、これは九州だったね」早樹

「そう、大分」五十六

「寺山台中学、泉央ニュータウンだな。紫山中学、京都。それから、上岡中学、すぐそこだよ」健太郎

「その上岡の錦織っていうのは、俺の同級生だったんだ」翔

「翔の?翔はまともにコンピューター使えないのに、こいつはたいしたもんだ」健太郎

「悪かったよ。ちゃんと勉強するよ」翔

「さて、ログをちゃんと取っといてよ」五十六

「どうするの、五十六」美弥

「これを、新聞部に持ち込むんだよ」五十六

「えぇ、やばいんじゃないの。先生に言う前にスクープにされちゃぁ」翔

「色々考えたんだが、中川と組むのが一番いいと思うんだ。世論を味方につけりゃ、文句も言えないだろう?」五十六

「それは、そうだけど。ねぇ、五十六、もう一回やってからの方がいいわ。今回の成功がたまたまじゃないという実績を見せないと、次にやったときにおかしなのが入ってきたら大変だもの」美弥

「ーん。それも一理あるな」五十六

「とりあえず、それは取っといて、次の結果を見てから。そうしよう!」翔

「うん、美弥ちゃんの意見を採用。そうたら、ログはどこかに組み込んで見れるようにしておいて、あ、それとチャットを閉じておいて。勝手に使われちゃ大変だ」五十六

「はい」由貴子

「さて、五十六。今日は、打ち上げと行きましょうか?」健太郎

「あんた、そればっかりね」美弥

「さんせーい!いいじゃないの、美弥ちゃん。成功したんだから。ね、五十六君」早樹

「おれは、欠席」五十六

五十六は小さく手を上げながら、そう言った。

「えぇー、どうしてぇ?」早樹

「ちょっと、やりたいことがあるんだ。だから、みんなで、どうぞ」五十六

「五十六ぅ!いまさら何を行ってるんだよ。おまえの作った会じゃないか、それをおまえが盛り下げてどうするんだ!」健太郎

「悪ぃ。また、おれは今度ってことで、許して。みんなは楽しんできて」五十六

「そんなのやだ」早樹

 すねてみせる早樹に健太郎と翔は意外な顔を見せた。

「いいじゃない、早樹ちゃん、行こうよ」翔

「やだ。あたし、帰る。美弥ちゃん、お先に」早樹


 早樹は鞄を掴むと振り向きもせずにさっさと部屋を出た。

「なんだ、あれは」翔

「おい、五十六、なんなんだ」健太郎

「なんなんだ、と言われても」五十六

「完全におまえ目当てじゃないか」健太郎

「知らないよ、そんなこと」五十六

 美弥も鞄を掴んで席を立った。

「あたしも、帰るわ」美弥

「あ、おい、美弥ちゃん。五十六、おまえのせいだぞ、ノリのいいおまえがどうしたって言うんだ」翔

「まぁ、取り越し苦労ってのかな、そうだといいんだけど、気になることがあってね」五十六

「翔、帰ろう。みんなバラバラじゃしょうがねえよ」健太郎

「まさか、早樹ちゃんがなぁ、こんなの…」翔

 二人は連れ立って出て行った。後に五十六と由貴子が残った。

「先輩、あの子のことでしょ」由貴子

「まぁね」五十六

五十六はメールを開いて、ワープロを打ち始めた。


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 みなさん、

  チャットに参加していただいたみなさん、

  チャットをご覧になったみなさん、

  どうもありがとうございました。


 見てない?見てなかったぁ?

  そういう方は、

  ログを組み込む予定ですので、

  それを見てください。


 あ、面白い

  参加してみようかな、

  と、思ったみなさん、

  また開催する予定ですので、お楽しみに。


 ご意見お待ちしています。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 緑ヶ丘学園2年B組

 コンピューター研究会会長

 山本五十六(本名です)                        


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


「先輩、これ」由貴子

「どう、不特定多数に向けて書いた文章に見える?」五十六

「でも、送るのは一人だけでしょ」由貴子

「まあね」五十六

「これで、返事を待つの」由貴子

「どんな動物でも、こっちから捕まえようとすると、暴力的になってしまう。だから、相手が寄ってくるのを待つんだ。それしか、ない」五十六

「そんなに気になるんですか?」由貴子

「“Dream is my friend.”ってどういう意味だと思う?」五十六

「夢が友達?」由貴子

「夢は、将来の夢だと思う?それとも、夜見る夢?」五十六

「夜見る夢、かな」由貴子

「残念。たぶん、この子は、昼に見てる」五十六

「…空想」由貴子

「登校拒否か、あるいは対人恐怖」五十六

「自閉症とか」由貴子

「正式な定義での自閉症ってのは、違うんだ。たぶん、ユッコの言ってるのは、自分の殻に閉じこもって他人と接触することを拒否する人のことを言ってるんだと思うんだけど、それを自閉症とは言わないんだ」五十六

「そうなの」由貴子

「取り越し苦労ならいいんだけど、気になるんでね」五十六

「一応送っておいたほうがいいですよね。このくらいなら」由貴子

「そう」五十六

「みんなには、言わないんですか」由貴子

「いいだろ、別に。また、その時が来たら言うよ」五十六

「会長ってのも大変ですね」由貴子

「そうそう、いたわってよ」五十六

「はいはい」由貴子

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る