第5話 道標ない旅-5

 五十六が視聴覚室に入ると、すでにみんな集まっていた。おやっと思ったのは、女子が一人多いことだった。

「こんにちは!」

 その女の子は大きな声で五十六に挨拶した。五十六も挨拶を返して、

「どちらさんで?」と尋ねた。

「彼女はね」美弥が本人に代わって紹介した。「早川さん。あたしの友達で、バレーボール部なんだけど、コンピューターに興味があるからって、今日見学に来たの」

「早川早樹です。お邪魔します」

「邪魔するんなら、帰って」五十六

バチンと音が響いて、美弥の声が響いた。

「またぁ、バカなこと言ってるんじゃないの!」美弥

「ジョーダンに決まってるだろ!いちいち、ぶつな!」五十六

「気にしないでね、早樹ちゃん」美弥

「全然。噂通りおもしろい人ね」早樹

「いやいや、こいつは、変わったヤツなんだよ」翔

「翔。今日は、クラブないの?」健太郎

「あるけど、いいんだ。選手に選ばれなかったから」翔

「こんなとこで、遊んでるからさ」健太郎

「そう。なんだったら、特訓してやろうか?必殺技を編み出すために」五十六

「無理だよ、そんなの。いいんだ、まぁ、ここでも」翔

「ここで、も?」美弥

「ぶたないで、美弥ちゃん!」翔

「もし早樹ちゃんが入ってくれたら、人数は足りるんだから、もう無理して来ていただかなくてもいいのよ、山吹君」美弥

「そうそう、もっとテニスに精進しなさい」健太郎

「健太郎!おまえまで、なんだよ!」翔

「まぁまぁ、みんな仲良くやろうよ」五十六

「また、すぐ、後ろに回るんだから」美弥

「人の上に立つ者としては、このくらいのことはしないとね」五十六

「じゃぁ、よろしく、お願いします」早樹

「早樹ちゃん、何組?」健太郎

「C組です」早樹

「なんだ、隣か。去年、美弥ちゃんと一緒だったの?」健太郎

「そうでーす」早樹

 健太郎と翔がぼそぼそと、かわいいな、と言い合っている一方で、五十六はじっと早樹を見つめて品定めしていた。

「コンピューターの何に、興味があるの?」五十六

「なんていうのかなぁ、色々できて楽しそうじゃない。それに、今のうちに覚えておかないと、時代に乗り遅れそうだしぃ」早樹

「早樹ちゃん」五十六

「はい?」早樹

「一緒に裏サイト見ない?」五十六

 バシンという鈍い音とともに、五十六は引っ繰り返った。

「思いっきりぶつな!」五十六

「うるさい!こないだから、それは禁止だって言ってるでしょ」美弥

「ばかやろう、こんなのは多数決だ!な、見たい人」と五十六が手を挙げると、しらけた空気が流れた。手を挙げてるのは五十六だけだった。

「なんだ、おまえら、裏切ったな!」五十六

「五十六、バカなこと言うな。俺たちは、学校のホームページを作るためにできたサークルだ。そんないかがわしいことに、時間を取られてるわけにはいかないんだ」健太郎

「そうそう、使える時間は少ししかないんだぞ。オレなんか、テニス部とのかけもちなんだから、さっそく始めよう」翔

「なんだぁ、おまえらぁ、早樹ちゃんの前で、ええカッコしやがってぇ!」五十六

「ほっとこ、早樹ちゃん」健太郎

「いい、僕たちが教えて上げるから」翔

「はい。でも、五十六さん、顔が腫れてますよ。大丈夫ですか?」早樹

「いいのいいの、昔からこいつはぶたれ馴れてるから大丈夫」美弥

「ぶってるのは、おまえじゃないか」五十六

「ぶたれるようなことしてるのは、あんたじゃないの!」美弥

「もっと、おしとやかになれ!」五十六

「なにぉ~!」美弥

 心配そうにおろおろする早樹に向かって健太郎は言った。

「ほっときなよ、早樹ちゃん。ケンカするほど仲がいいっ言うだろ。こいつらは、こうやってじゃれてるんだよ」健太郎

「ちょっと、健太郎!人聞きの悪いこと言わないでよ」美弥

「そうそう、じゃれるっていうのはな、こういうことじゃないぞ」五十六

「また、スケベなこと言おうとしてるでしょ」美弥

「え、わかる?美弥ちゃんも、エッチ」五十六

 引っぱたこうとした美弥を察して五十六は、ぱっと身を翻した。互いに目が合って、ニヤリと笑う五十六、冷やかに微笑む美弥。

「やるわね」美弥

「もう、何年のつきあいだと思ってるんだ、美弥。おまえの間合いは、見切った!」五十六

 呆れたように見つめる、他の4名。その気配を察して美弥は、つくり笑顔で、

「さぁ、そろそろ、やりましょう」と言った。

「負けを認めるのか!美弥!勝負しろぉ!」五十六

 五十六の挑発に、美弥は振り返ると、ぐっと睨んだ。怯んだ五十六に向かって、

「さぁ、会長、ホームページ、始めましょう」と言った。

 五十六は小さく、はい、と言って、サングラスを掛けた。

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