第4話 道標ない旅-4


 五十六はサングラスを外した。


「じゃぁ、そういうことで、とりあえず今日は、ホームページの修正をしていこうよ」五十六

「完全に別人みたいだな、いつも思うけど」健太郎

「昔っからこうなの」美弥

「昔っからって言ったって、小学校からサングラス掛けてたわけじゃないだろ」健太郎

「掛けてたの。信じられないかもしれないけど」美弥

「嫌だな、二人とも。これはサングラスじゃないよ。ただの色つき眼鏡。ちょっと色が濃いだけ」五十六

「こないだも、先生にそう言って、殴られてたじゃない」美弥

「僕たちの主張は通らないんだ。大人なんて、都合のいいときに子供扱いして、都合のいいときに大人扱いして、僕たちをもてあそぶんだ」五十六

「はいはい。さぁ、やりましょうか」美弥

 冷静に美弥はそう言ったあと、コンピューターの前に座っている由貴子に指示をした。

「先にメールチェックしてみて。何か苦情が入ってるかもしれないから」美弥

「はーい」由貴子

「ちぇっ、いつもほったらかしかよ」五十六

冷めた五十六に健太郎はそっと耳打ちした。

「いいじゃないの、おかげでスケベ画像はうやむやになったし」健太郎

「まぁね」五十六


 「あれぇ」由貴子が声を上げた。「メール一つだけなんだけど、これ、ちょっと、見てもらえません」

「なになに?」健太郎


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


 こんにちは


  はじめまして、私は中学1年生の女子です。

 皆さんも中学生なんですね。

  コンピューターが好きなんですか?

  私も好きです。

  このページを皆さんが作ったって本当ですか?

  すごいですね。

  私なんて、こうしてあっちこっち覗いて回ることしかできないのに。


 頑張ってください。

  応援してます。

                         ドリフレ


*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*


「なんだ、これ?」健太郎


「住所も名前も何にも書いてないのね」美弥

「メールアドレスはわかるけど」由貴子

「それに変わった文章だな」健太郎

「健太郎、これはPELだ」五十六

「なんだペルって?」健太郎

「Prosodically-Enhanced Layoutのことで、読みやすくて理解しやすくした書式だ」五十六

「へぇ、そんなのあるの」翔

「メールアドレスはあるから、返事は送れるけど」由貴子

「いいんじゃないの、自分の名前が知られるのは嫌だっていうヤツもいるよ」健太郎

「ニックネームだけでいいから気楽に送れるって部分も、インターネットの便利なトコだ」五十六

「でも、これ、学校じゃないみたいね」美弥

「家のコンピューターかな。ユッコちゃん、とりあえず返事送っておいてよ」五十六

「なんて、送ったらいいの?」由貴子

「よかったら、住所とか教えて下さいって。同級生だし、ユッコちゃんが一番適任だよ」五十六

「そうね」美弥

「はい、じゃあ、送っときます」由貴子

「でも、ドリフレってなんだ?」翔

「それも訊いてみたら、ユッコちゃん」健太郎

「はい」由貴子

「ドリカムのパロディだったりして」翔

「ドリーム…なにになるんだ?」健太郎

「わかんねえ。返事待ってよ」翔

 騒いでいる二人を無視して、由貴子はメールを返送した。

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