第3話 道標ない旅-3
「ところで、諸君」五十六は、胸ポケットからサングラスを取り出して気取りながら掛けると、静かに話し出した。
「われわれの活動だが」五十六
「まったくすぐに豹変するんだから」そう言いながら、美弥は近くの椅子に座り、由貴子を呼び寄せた。由貴子は美弥の側に腰掛け、健太郎も近くに座った。
「さて、先日開設したホームページだが、色々バグもあって、問題が多い。いくつか問題点も発見したのだが、まだまだ修正が必要だ。それに、学校の監査も入っていて、非常に面白くない」五十六
「なに言ってんのよ。学校の紹介のホームページなんだから、先生がチェックするのは当たり前でしょ」美弥
「もちろんだ。しかし、このままでは、われわれの自治権が、ない」五十六
「基本的人権の侵害」健太郎
「その通り、新井君。君の意見は貴重だ」五十六
「バカなことばっかり!」美弥
「そこで、私見ではあるが、ひとつ提案がある」五十六
「なによ」美弥
「裏ページを作ろうじゃないか」五十六
「やったぁ、俺たちも裏ネットか!」翔
「バッカじゃないの!学校のホームページに猥褻画像載せようなんて!」美弥
「待ちたまえ、久保田君。だれが、猥褻画像を載せると言った。まぁ、君が脱ぎたいというなら別だが。私の言ってるのは裏ページだ。つまり、表ページは、学校の紹介だ。いまあるように、先生から頼まれたように、この学校はどこにあって、校内の様子はどんなで、授業はどんなで、入試要領はどうやって手に入れるか、というものだ」五十六
「そうよ」美弥
「一部、われわれの会を中心に、クラブ紹介もあるけど、通り一辺で面白くない」五十六
「もちろん」美弥
「『お手紙ください!』のコーナーも全国の学校からぽつぽつと送られてきて、すこぶる良好だ」五十六
「そうそう」翔&健太郎
「しかし、これでは面白くもなんともないじゃないか。われわれの肉声を感じてもらうにはどうするか、それが裏ページだ」五十六
「だから、なにをしたいの」美弥
「久保田君。睨まなくてもいい。かわいい顔が台無しだ。手っとり早く言おう、チャットだ」五十六
「チャット?こんなとこに?」健太郎
「ツィッターじゃなくて?」翔
「学校のホームページにチャットなんて必要なの?」美弥
「普通はない。しかし、これは面白い試みだと思わないか?メールとして送られてくるものに、われわれがリアルタイムで直接返事することができるんだ」五十六
「でも、おかしなヤツが入って来ないかな」翔
「それならそれでもいい。うまく騙してメールアドレス聞き出して、警察に通報すればいいだけだからだ」五十六
「でも、ずっと相手してられないわよ」美弥
「当然だ。だから、例えば木曜の4時~5時というようにパーティを開けばいいんだ」五十六
「悪くないな」健太郎
「毎週やってると大変なら隔週でもいい。ライブで応答できるということに、意義がある」五十六
「インターネットの利点って、そういうところなのよね」美弥
「電話のほうが早い、というのは現状のことで、将来どうなるかわからない。今やっている試みが、将来メジャーになるかもしれない」五十六
「五十六、やってみようか」翔
「ただ、学校に言うと、認可されないかもしれない。なぜなら、まだまだチャットに対する理解が得られていないからだ」五十六
「犯罪に巻き込まれる可能性もあるしね」美弥
「そこで、内緒で、組み込んで、取り敢えずは試しにやってみようじゃないか、ということだ。如何だね、諸君」五十六
「異議な~し」全員
「いいわ。ね、ユッコちゃんも」美弥
「うん。なんか、楽しそう」由貴子
「よーし、それでは諸君の同意を得たところで、煮詰めていこう。と、言っても、すぐに意見はでないだろう。そこで、今日のところは、この話はここまでで、帰って色々考えてみてくれたまえ。家のコンピューターであちこちのチャットにアクセスしてみるのもいいだろう。目標を一ヵ月先、ということにして、計画していこう」五十六
「でも、もっとすぐにできるんじゃないの」健太郎
「まぁ、一ヵ月というのは、最悪の場合ということだ。早ければ来週でもいい。しかし、周知するには二週間はかかるだろう」五十六
「シュウチ?」健太郎
「そう、チャットを開設したということを知ってもらい、そのパーティに時間を調整してもらうのに、そのくらいは見ておこうということだ」五十六
「五十六、きれてるぅ」翔
「一度にたくさんアクセスしてきたら大変じゃない?」美弥
「それも、意見としてまとめて欲しい。通常のチャットだと、五六人というところだが、こちらの専用ネームも四本用意しておく必要があるだろう」五十六
「わぁー、大変だぁ」翔
「新聞部とか、協力してもらったら」美弥
「それも意見として聞いておこう。ただ、中川はがめついから、金を取られる可能性もある」五十六
「それは、あんたたちの関係でしょ」美弥
「俺、新田と去年同じクラスだったから、話してみようか」
「意見がまとまってからでもいいだろう。それに、裏ページで進める以上、新聞部に知れるのは都合が悪いかもしれない」五十六
「成功した暁は、ってとこだな」
「まぁ、そういうことだ。その時は、新聞部中心に文科クラブに助けを求めて、ゆくゆくは正式のクラブに昇格する。そのプロジェクトの第一段階でもある。くれぐれも慎重に事をくれたまえ」五十六
「イェス、サー」健太郎&翔
「なお、このテープは自動的に消滅する。ドッカーン!」五十六
「なによ、びっくりするじゃない」美弥
「スパイか探偵みたいね」由貴子
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