主人公という役目

バブみ道日丿宮組

お題:計算ずくめの小説 制限時間:15分

主人公という役目

 生涯を文字で綴ることは決して難しいことじゃない。

 大体の平日は学校または会社で過ごしてる。そして移動時間と休憩時間、睡眠時間という固定された時間しか人間は過ごしていない。

 これがライトノベルの主人公であれば、モンスターを倒したり、永遠に続く学園生活、戦争、宿命のライバル、ツンデレ、ヤンデレという環境に置かれたりする。

 実際はそんなことは起こり得ない。

 いや、起こった事例はある。

 もちろん、病んでしまった場合は帰ってこない事件として発生し、精神科医によって無実を証明される。

 人の精神は計算ずくめされてる部分がほとんどだ。小説のように例外の行動をほとんどしない。まるでロボットのようだ。

 中にはオリンピック選手や、何かの賞を取る人物がいるがそれはあくまでも偶然の産物。人間が毎秒毎に死んだ過程で生まれた奇跡でしかない。

 そう、それが素質であり、運命である。

 だからこそ、誰しもがライトノベルのような主人公を望む。自分こそが自分こそが最強であり、完璧である。そう信じる。

 そのために誰かが倒れ、病に冒されても構いはしない。

 自分だけの物語がそこにはある。

 部下や仲間の死までも含めてが主人公の計算。

 そのことを可哀想だとは私は思わない。

 私は私が例外だとは思わないのと同じ理由で、他人を例外だとは思わないから。

 人間は人間。それ以外になれはしない。

「地球崩壊まであと24時間」

 誰かがいつかすると思ってたことは必ず起こる。

 全世界の核ミサイルの発射態勢が整った。

 各国はテロリズムだと発表してるが本当のところはわからない。誰かが引き金を引いたがためにもう一方が、そしてまたその一方が……その繰り返しでこうなったとしか思えない。

「……」

 とある国のお偉い方はもういない。

 これを考えるとこの国が主犯だということだろう。

 私の物語はこれで終わる。

 日常を日記として、最後のハルマゲドンまで書き続ける。

「ご飯食べないの?」

「いい、死ぬのは一人でいいから」

 親からの言葉を非情に返す。

 死にたくないと思ったら、何かが壊れてしまいそうだ。

「そう……お母さんたちは居間にいるからいつでもきてね」

 足音が遠ざかる。

 不安。

 誰しもが自分が死ぬことに恐怖を感じる。

 仕組まれた物語。

 否定できない未来。

 なら、私は私でいたい。

「……宇宙ステーションの落下を指定」

 生き残りは許さない。

 これは私が私でいるための最後のあがき。

 プログラムは見事に作動した。

 まるで小説の主人公のようだ。いや、主人公であるならば核ミサイルの発射を止めるのだろうが、私は違った。

 生き残りなんて必要ないーーそうとしか考えられない自分が恐ろしくもある。

「……必死ね」

 ハッキングしたカメラではお偉い方が慌ててる。なんとか地球に落ちないように変更を試みてる。だが遅い。

 大気圏に入るコースになっては今の技術ではどうやっても逃れられない。

「ふふ、これで物語は終わる」

 そう私たちのお話は完結する。


 人類の滅亡という未来でーー

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主人公という役目 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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