第3話 君とのデートで僕は
「デート、デートねぇ……なんで服屋なんだよ」
「それは当然服を買うためですよ」
至極当たり前の返答をする未侑に、そりゃ分かってるんだよ。というツッコミの代わりにため息をつく。
「デートするなら別に、近くにいくらでも行く場所あっただろ、映画館に水族館、カラオケ……は無しにしても、ボーリング、ゲーセン、遊園地とか」
考えれば考えるほど遊ぶための施設が出てくる。ちなみに大して親しくもないのに男女二人きりでカラオケに誘うのは基本的に避けておいた方がいい。これ常識な。
「へぇ、せっかく私が付き合ってあげているというのに先輩は不満なんですか。全く、こんなかわいい後輩を捕まえておいて贅沢な先輩ですね」
「いや別に、不満とかないけどさ、ここ男物の店だし見ても楽しいものなんてないだろ?」
そう言うと、未侑はキョトンとした顔でこちらを見てくる。
「何を言っているんですか。先輩の服を買うんですよ?」
「……はい?」
俺の服を?なんで?
「いや、別に俺着るものには困ってないぞ?」
「……それ本気で言ってます?」
未侑が呆れたような表情を俺に向ける。
少し不安になり、今の俺の服装を見直してみる。
無地の白Tシャツに、青のジーンズ。靴は動きやすいスニーカー。……うん、派手過ぎずに、周りから見れば一般的な量産型大学生みたいな服装だ。
「……なんか問題あるか?」
「あのですね、先輩の服装は確かに、普段生活する分には十分かもしれません。結構長い間着ているのであろう、そのよれたTシャツも、とりあえず無難にという感じが透けて見えるそのジーンズも」
「お、おう」
よく見てるなという関心半分、完璧に心情まで当てられた恥ずかしさ半分で俺は応える。
「けど!その服装は絶対にデートに来てくるものではありません!」
そう自信満々に説教されてしまった。
「……仕方ないだろ。俺にセンスを求める方がおかしい」
「開き直られるといっそ清々しいですね……まぁ大丈夫です。短い付き合いですが、先輩にセンスを求めるなんて酷なことはしません」
……おい、そこまで言うかね。ジト目で未侑のことを睨むが、熱を込めて話す後輩には伝わらないようで、無視される。
「ですから!私が先輩の服を選んであげます」
俺は人差し指を立て、そう言う未侑の服装を改めて見る。
淡いピンク色の袖のない服、上には薄い生地の大きなシャツを羽織り、下にはゆったりとした涼しげなズボン……?らしきもの。正直、オシャレだと思う。
「はぁ、私の服を見ていたようですけど、どうせ先輩には服の詳しい名称なんてわからないでしょうから説明しますけど、ピンクのノースリーブの上にオーバーサイズの薄手の軽い白シャツ、クリーム色のワイドパンツです」
きっとこの時の俺の顔には、はてなマークがいくつも浮かんでいたことだろう。どうやら未侑は俺が理解できないのも分かっていたようで、少し困った顔で首を傾げる素振りををする俺を見てクスクスと笑っていた。
……くそ、完全に遊ばれてるな。
けれど、どうしてだろうか、この関係はあまり嫌な気はしなかった。
「ふふっ、見違えましたね」
あの後、ひたすら未侑の着せ替え人形になり続けて一時間強。俺は先程までの服装とは違う服を着て、両手にいくつかの荷物を持ちながら歩いていた。
「でも……先輩、なにもそんなに買わなくてもよかったんですよ」
「俺が欲しかったから買ったんだよ。……まあ買いすぎた感は否めないけどな」
俺が思っていたよりも更に未侑のセンスは良く、着させられたものに気に入るものが多かったので流石に全部は買わなかったが、合計で上下セットで5セットの服を購入してしまった。財布から諭吉さんがかなり消えたが、正直金には困ってないので
余談だが、アホみたいに金を使う俺に未侑はちょっと引いていた。……いやまあ、そりゃそうだろうな。普通に三万を超えてきたのには本気でビビった。
その後から未侑の宣言通り毎日、『デート』は行われ続けた。
「……んで、今日はどうするんだ?考えてるんだろ?」
「勿論ですよ!次はですね、今日上映の気になってる映画があるので、見に行きませんか?」
気になっている映画があるとのことなので、一緒に行ったらホラー映画だったり。
「せせせせ、先輩こ、怖くありませんでしたね?」
「嘘つけ、声も体も滅茶苦茶震えてんじゃねえか」
「先輩は余裕そうなのズルいですよ!」
「怖かったのは怖かったんだけどさ……やっぱ人間のほうが怖いわ」
ゲーセンで二人で騒いだり。
「せ、先輩あれ!あのぬいぐるみ欲しいです!」
「おい、ばっか!くっつくなって!邪魔しなきゃとれるから!」
「もうちょっと……やったー!とれた!!」
「はいはい。じゃ、どうぞお姫様」
「ありがとうございます!ずっと大事にしますね!!」
ボーリングで本気で競い合ったり。
「先輩、私最高スコア187なんですよ~」
「へぇ、そうか。ほい、ストライク」
「えええ!?なんで先輩そんなに上手いんですか~」
「……アベ220だからな」
「ええっ!?最高220なんですか!?」
「……いや、アベ」
俺のave(平均スコアのこと)を言った瞬間に周囲からめっちゃ見られた。しばらくここのボウリング場には行かないことを決心した。
そんな風に過ごしていればあっという間に日は過ぎていて、いつの間にか未侑と過ごすのが当たり前になってきていた。
「そういえば、お前って友達はいないのか?」
俺の他に、という言葉は伏せておく。今の俺達の関係はなんと言っていいのか分からない関係だし。
「え?そりゃいますよ。私、2年の中では割と人気なんですよ?」
まぁ、そりゃそうか、と思う。
未侑は客観的に見て美少女だ。俺なんかが一緒にいたら明らかに不自然なレベルの。その上で優しくて、話しやすいとか、そりゃ友達もできるだろうし、当然のようにモテるだろう。
「いいのかお前」
「?何がですか?」
俺の発言に本気で意味がわかっていないようにキョトンとする未侑。
「いや、お前モテるだろ。俺と居たら彼氏もできないんじゃないのか?」
「……なーに言ってるんですかー。確かに?私は美少女ですし?当然ながらモテますよ?でも、彼氏欲しかったらあんな風に提案なんてしませんよ」
「自分で美少女とか言っちゃうのか」
「自覚してないフリをする方が性格悪いと思いません?」
そう言ってクスクスと笑う。未侑を見てそれもそうかと思う。
「まぁその、なんだ。……ありがとうな」
「急になんですか。気持ち悪い」
おいこら。ぶっ刺ってメンタルが死ぬからその言葉はやめろ。
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