第2話 君と一夜明けて僕は
「先輩、まずは私を好きになるところから始めましょうか」
「は?」
この、目の前でふざけたことをぬかしている後輩、未侑と出会った次の日、俺は後輩から「あなたの死についてお話があります」と呼び出され、昨日と同じように学校の屋上に二人でいた。
「は?ってなんですか、は?って。私は大真面目に提案してますのに……」
「いや、普通に意味わかんないだろうが。なんだよお前を好きになるって。俺の死に方の話じゃないのか?」
「いえ、大いに関係ありますよ」
自信満々にそう言ってのける未侑に疑いの目を向ける。
「へぇ、じゃあ聞かせてもらおうか、未侑」
「な、名前呼び……。ごほん。いいでしょう」
少し未侑が何かで動揺していたような気がしたが、今の会話内で動揺する点なんてなかったはずなので気のせいだろう。気にせずに、自らの豊満な胸を張りながら話す未侑を見る。
……決して胸を見ているわけではない。決してだ。
「まずですね、先輩は殺されるならどんな人に殺されたいですか?」
殺されるなら……か。正直考えたこともなかった。そうだな、どんな人がいいだろうか。
だがしばらく考えてみるものの、これといった明確な答えは生まれなかった。
「いや、考えたことなかった。悪いけど思いつかねえわ」
「そうですか。じゃあ、逆に考えてみてください。先輩は嫌いな人に殺されたいですか?」
想像してみる。
例えば、俺の『殺され体質』を知って気味悪がって、塩をまいてきた奴。
例えば、面白がって俺を死神と呼んでクラス中で無視をしてきた奴ら。
例えば、中途半端な同情で俺に近づき、実際に事件に巻き込まれればクラス中にあいつは疫病神だと言いふらし回った奴。
そんな奴らに殺されたら。
「ああ、嫌だな。それは嫌だ」
文字通り、
「そうでしょう?だから先輩には私のことを嫌いな人とは反対の、好きな人にしてもらうことで解決しようとしています」
つまり、未侑の言い分としては、嫌いな人じゃなくしたければ、好きな人になればいいよね。という訳だ。暴論ではあるが、まあ納得もできる。俺だって嫌いな奴に殺されるよりは、好きな人に殺されたい。
「つまり俺はお前に恋をすればいいってことか?」
「別に恋愛感情だけじゃなくても、友情でも何でもいいですが、まあ要するに私と仲良くしましょうってことです」
少し照れた様子で未侑は言う。
「なるほどな……確かにそうかもしれない。分かった。なんでも協力する」
そう言うと、未侑はその言葉を待っていたというようにニヤッと笑った。
あ、やべ、早まったか。
「へーそうですか。なんでもですか!じゃあ先輩、私とデートしましょうか」
「は?デート!?いや、ちょ待って」
「待ちませんよ~。だって先輩な・ん・で・もしてくれるんですもんね?」
冗談じゃない。こいつと一緒にいるところを見られでもしたら、ただでさえ嫌われているのに更にヘイトを買うことになってしまう。そうなれば学校内で俺が安らかに過ごせる未来は今後来なくなってしまう。
「先輩?よくよく考えてみてくださいよ。先輩は私に殺されて近いうちに死ぬんですよね?だったら、別にそんな短い間のクラスでの評判とか、どうでもよくないですか?」
その言葉を聞いて少しだけ考える。確かに。と思ってしまった。
……そりゃそうだよな。どうせ死んだらクラスどころか、学校中で騒ぎになるんだ。もうすぐ死のうとしている人間がそんなこと気にしても意味ないか。
「分かった。いいぞ、デート一緒に行こうか」
……そう考え、納得している様子の俺を見て、未侑が少し寂しそうにしていることに俺は気づかなかった。
「……そうですか。じゃあ、明日行きましょう」
「ん。……ん?明日?」
思わず聞き返して、未侑の顔を見る。未侑はニヤッと笑い、「ええ」と答える。
「……というより、明日だけではなくてこれから毎日付き合ってあげますよ!」
ピシっと表情が凍り付いた気がした。
「え、それ拒否権は……?」
薄々返答が分かっていながらも一縷の希望をかけて発した言葉は、当然のようにいい笑顔で「ないですよ?」と返されるのだった。
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