第21話 瞬きもせず-21
*
「あたし…仙貴さんのこと、好きなの」
二人きりの部屋でしのぶは朝夢見に語った。朝夢見は気づいていたので特に驚きはしなかった。
「そう…」
「でも…、仙貴さんと朝夢見さんってなんかお似合いだなって思ってたから、ずっと言わなかったの……」
「そう?あたしと仙貴は…そうね、似合っていると言えば似合ってるかもしれない。どっちも、修羅場くぐってきたチンピラ同士だから」
「そ、そんな意味で言ったんじゃないわ。二人、恋人同士になったら、お似合いだな、って思ってたの」
「最強タッグね。ファントム・レディと戦鬼。ちょっと、誰も挑戦してこないわね」
「冗談で言ってるんじゃないわ。ほんとにそう思ってたの。雰囲気もいいし、お似合いだし…」
「はいはい、ありがとう。でも、あたしも、仙貴もたぶん、そんな気はないわ」
「ほんとにほんと?」
「うん。少なくてもあたしは」
「…こないだ、直樹さんとの試合あったじゃない?あの後、仙貴さんの言葉を聞いてて思ったの。仙貴さん、朝夢見さんのこと、そういう感情で見てないって」
「そういう感情って?」
「……恋愛感情」
「あぁ…。そうね」
「仙貴さん、冷静に朝夢見さんの気持ち分析してて、朝夢見さんがほんとは直樹さんのこと好きなんじゃないかって言って、それを聞いてて、あたし、ずるいけど、ほっとしてた」
「そう…」
「ね、朝夢見さん、ほんとに直樹さんのファンなの?憧れているの?………好きなの?」
「……わからない」
「どうして?」
「わからないの。直樹さん、いい人だと思う。カッコもいいしね、野球もうまい。ほんとにいい人だと思う。けど、そういう感情をあたしが持ったことがないから、何とも言えない…」
「仙貴さんの言ったことは、ハズレなの?」
「…わからない」
「でも……、仙貴さんに言われて…辛くなかった?」
「…別に、そうでもなかった」
「……。…よかった」
「え?」
「ごめんなさい」慌ててしのぶは言った。「あたし、朝夢見さんが、もしかしたら、がっかりしてるんじゃないかって、思ってた」
「どうして?」
「だって、好きな人にあんなこと言われたら、やっぱりショックでしょ?」
「そうね。きっと、そう」
「それが、辛くなかったんなら、特別な感情はないってことだから」
「そう…かもね」
「……あたし、バカみたい」
「え、どうして?」
「人の不幸を待ってる…」
「不幸だなんて…。それより、しのぶちゃんは、言わないの?」
「え?」
「好きだって」
にっこり微笑む朝夢見に、しのぶは固まったまま返答しなかった。そして、顔が青くなっていった。
「…しのぶちゃん」
しのぶの目から涙がぼろぼろと溢れてきた。朝夢見はどうしようもなく、ただしのぶを抱きかかえるだけだった。
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