第22話 瞬きもせず-22
「それで、あたしだとどうしようもなくて、由理子さんに話を聞いてもらおうと思って来たの」
「あたしでいいの?」
しのぶはうなだれたまま小さく頷いた。由理子はほっとしながら、緊張しつつ言葉を探した。しかし、こんなにも打ちひしがれているしのぶに掛けるべき言葉は見つからなかった。
「しのぶちゃん、ね、わけを、話して」
朝夢見の言葉は優しくしのぶを促した。その言葉にしのぶはピクリと反応した。こんなにも身を硬くしているしのぶが、朝夢見のひと言に反応した。しのぶと朝夢見はこんなにも信頼し合っているのかと、由理子は感じた。
「由理子さんも、聞いてくれるわ。ね、話して」
しのぶは小さい声で話し始めた。はっきりと聞き取れなくて、耳をそばだてた。涙声のまま話すしのぶの言葉を、確かめながら感じ取った。
「あたし…、仙貴さんのこと、好きなんです。とっても、大きな、んん、体が大きいっていうことじゃなくて、人間として大きな人だと思ってるんです。優しくて、いつもニコニコしてて、それでいて、頼りがいもあって…、ケンカも強くてスポーツも上手で」
断片的に語るしのぶの言葉に朝夢見も由理子も頷いていた。
「仙貴にボディーガードもしてもらってたものね」
しのぶは朝夢見の言葉に、頷いた。
「それで、一緒に住んでても、やっぱり、いい人だって…思って…。ずっと、………好き…だったんです」
「そうなの」
由理子は慈しむように小さく相槌を打った。
「でも、あたしなんか、仙貴さんにふさわしくないって思ってた。…朝夢見さんがいたから。朝夢見さんと、仙貴さん、って、お似合いだと思いません?」
「そうね…」由理子は少し考えた。迂闊なことを言えばしのぶを傷つけるかもしれない。言葉を選んで答えた。「お似合いと言えば、お似合いだけど、朝夢見ちゃんとお兄ちゃんもお似合いよ」
「そう、そうなんです」しのぶが由理子の言葉に反応した。
「あたし、諦めてたんです。
仙貴さんと朝夢見さんはお似合いだから。でも、直樹さんが朝夢見さんのこと好きだって言って、朝夢見さんもそれを悪く思ってない…みたいだから、それから、また迷ったんです」
「何を」
「朝夢見さんと、直樹さんが、カップルになれば、仙貴さんがあまるって。だったら、……あたし…、仙貴さんの…彼女になりたい…って……」
由理子は静かに頷いた。朝夢見も頷いている。しのぶは二人の様子を確認してから、また落ち込んだ。
「でも…、無理なんです」
「どうして?」
「いいじゃないの?しのぶちゃん、かわいいわよ」
「あたし……」
しのぶは言葉を噤んだ。ためらいが感じられる。何かをためらっている。由理子にはそれが何かわからなかった。朝夢見の様子を見ると、朝夢見は何かを知っているようだった。朝夢見に訊いてみようかと思ったが、この緊張感の中ではしのぶの次の言葉を待っているしかなかった。
「あたし……、……売春してたんです」
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