第19話 瞬きもせず-19
真っ正面から言い切った直樹に朝夢見は、また、言葉を失った。真っ赤になって立ち尽くしている。由理子は、朝夢見の姿に見入り、朝夢見の言葉を待った。直樹は、微笑みながら朝夢見の顔を見つめている。朝夢見は、直樹に見入られたまま立ち尽くしている。こうして見ると、ほんの少女に見える。由理子は、じっと待った。
「ダメか?」
直樹の優しい声が朝夢見に投げ掛けられた。朝夢見は、ちょっと手を握り直して、言葉を探しているようだった。由理子は静観していた。何も、言葉は出なかった、出せなかった。ただ、朝夢見の言葉を待った。
「あ…あたし……」
直樹は小首を傾げて、朝夢見の言葉に耳を傾けた。由理子も、固唾を飲んで、その言葉に神経を集中させた。
「あたし…ファントム・レディだから……」
「だから?」
「だから……、お断りします…」
「どうして?」
「…ファントム・レディだから」
「だから?」
「だから、お断りします」
「そんなのは、理由にならないよ。俺は、ファントム・レディだから、惚れたんだ。だろ?」
「でも……、…ごめんなさい」
「俺は、ファントム・レディがどんなものかは、わかってるつもりだけど…」
直樹の言葉にも朝夢見はじっと身を硬くしていた。それを見た直樹は両手を開きながら、首を振った。
「わかんないなぁ。まぁ、いいさ。焦らないから。いまはダメでも、明日はOKってこともあるだろ。その日を、待ちますか」
直樹はそう言うと、身を翻して家に入って行った。後には、身を硬直させて俯いたままの朝夢見が立っていた。由理子は立ち上がってゆっくりと近づいて、そっと肩に手を置いた。朝夢見は顔を上げて、由理子の顔を見た。戸惑いのあふれたその表情に、由理子はそっと頷いた。朝夢見の口の端が緩んで、ようやく表情が和らいだ。
穏やかな陽射しは、もはや傾いて、紅みを帯びた日が庭に射し込んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます