第18話 瞬きもせず-18
驚きの表情は、朝夢見だけでなく由理子にも現れた。二人とも自分がどんな顔をしているか、考えることすらできなかった。
「な、なに、言ったの?」
「お兄ちゃん…」
「なんだ、二人とも。俺は、ただ、朝夢見ちゃんに、つき合わないかって、訊いただけじゃないか?」
「え、でも、あたしが?直樹さんと?」
「そう」
「ど、どうして?」
「嫌なのか?」
「嫌もくそもないわよ。いきなり、そんなこと言われて」
「そうよ、お兄ちゃん。そんな突然、何を」
「俺は、こないだから考えてたんだ。朝夢見と対戦してから、こいつはたいしたやつだと思って、感心して、それで惚れたってわけだ」
「惚れたって、そんな、簡単に言わないでよ」
朝夢見は顔を赤くしてうろたえながら叫んだ。しかし、直樹は全く意に介さず、平然と言い放った。
「おまえを、他の男になんて譲れない」
「そ、そんな…」
朝夢見は絶句して言葉が次げなかった。由理子は、そんな朝夢見を、かわいいと思って見とれていた。
「だ、だって、直樹さんの理想って、由理子さんだって聞いたわよ。あたしと由理子さんだったら、全然タイプが違うじゃない」
「それはそれ、これはこれ」
「これはこれ、じゃないわよ。まったく。ね、由理子さん、何とか言ってよ」
突然言葉を投げ掛けられて由理子もうろたえてしまった。
「あ、あん、うん。でも、朝夢見ちゃんとお兄ちゃんだったら…、いい雰囲気かな…」
「そんなこと言わないでよ。あたし、困ってるのに」
「俺じゃダメか?」
「ダメなわけないじゃない」
「じゃあ、いいじゃない」
「よくないから言ってるの」
「どうして?」
「だって、みんなのヒーローよ。甲子園への希望の星よ。そんな人と、あたしなんて」
「いいじゃない、そんなの気にしなくても。俺は、俺。ただの一個人として、つき合ってくれればいいから」
「そんな…」
朝夢見は赤くなったまま俯いて黙ってしまった。その様子がとてもかわいい。
「ね、お兄ちゃん。朝夢見ちゃんのどこが、気に入ったの?」
由理子は言葉を失った朝夢見に代わって訊ねた。
「どこ…って、そんなことはわかんねえよ。ただ、他のやつにはくれてやらねえ。そう思っただけだ」
「どうして?」
「わかんねえ。まぁ、強いて言えば、真剣勝負の中で感じたハートだな。熱く、相手を打ち負かすために、全身全霊を費やして燃えた、あの瞬間に、俺は朝夢見に惚れたんだ」
「なんか…、女の子として見てもらってないみたい…」
「バカ言え。ファントム・レディっていう、最高のレディに惚れたんだ」
「そ…そんな……」
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