第15話 瞬きもせず-15

「……」

絶句した由理子の前で朝夢見は笑みを見せていた。

「わかってないのね、由理子さんも。あたしの左手は、リンゴを握りつぶせるのよ」

「…ほんと?」

「うん」

微笑みながら頷く朝夢見に由理子はただ呆然としていた。

「由理子さん、あんまり、よく知らないんだ。あたし、たち、はね、本物のバケモノなのよ」

「あたしたち?」

「あたしとミキちゃんと、由起子先生」

「本当?」

「本当よ。初めに訊かれた。それでもいいか、って。それでいいと答えた。あたしは、自分からバケモノになったの」

「だからって、断る理由にはならないわ」

「そうじゃない。バケモノだからっていうのが理由じゃない。心が違う。あたしは、住む空間が違ってる」

「え?」

「あたしは、同じ所にいながら、同じ空気を吸いながら、違う世界を生きている」

「で、でも、ミキちゃんは?ミキちゃんは、彼氏と仲良く、みんなと楽しく暮らしてる」

「…んん。きっと、ミキちゃんもわかってる。いざというときには、自分が特別扱いされてしまう」

「いざっていう時って、どんな時?」

「例えば、この間の野球部と愛球会の試合みたいな時」

「え、あれ?」

「あれも、そういう特別な時」

「そうなの?」

「あたしたちみたいに身体能力の高い子は、男だとか女だとかなんて関係ないわ。そして、他の子より抜きんでて、目立ってしまって、言われるの、『バケモノ』って」

「そんな…」

「しのぶちゃんのときも、そうかな。あれも、特別扱い。別に、嫌だっていう訳じゃないわ。あの時、しのぶちゃんのガードができるのは、あたしと仙貴しかいなかった。そんなことくらいわかる。特に不満はないし、由起子先生に文句言うつもりもない。でも、やっぱりあたしたちは、別なんだって」

「そう…」

「修羅場をくぐり抜けて来てしまった者の宿命なのよね」

「でも……」

「いいの、何も言ってくれなくて」

 澄ました顔でジュースを飲む朝夢見に由理子はもう何も言えなかった。何を言っても慰めになってしまう、気休めになってしまう。だけど、朝夢見は、そんなものを越えている。そう、さっき自分で言っていた、男だとか女だとか関係ない次元で、取り澄ましている。まるで、由起子先生のように。

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