第16話 瞬きもせず-16

 ―――由起子先生?

由理子はその時気がついた。朝夢見に漂う懐かしさと頼もしさ、そして懐の深さが、由起子先生に似ているのだと。初めから気安く話せる理由がようやくわかった。

「あ、でも、これも面白いよ。何て言うのかな、…こう、人とうまく距離を置いてつき合えるっていうのかな、別に疎遠だとか、そんな意味じゃないわよ。んー、何ていうのかな…、楽しく眺めていられる…、違うな…」

かわいく悩む朝夢見を由理子は微笑ましく見ていた。朝夢見ちゃんってこういう子なんだ、と実感しながら。


 「よお、いらっしゃい」

トレーニングルームが開いて直樹が出てきて、朝夢見を見つけて声を掛けた。

「あ、お邪魔してます」

「どうぞどうぞ、いくらでもお邪魔して」

朝夢見は笑顔で応えて、直樹に訊ねた。

「直樹さん、バッティング練習?」

「そう。こないだは、誰かさんにやられちまったからね。リベンジをするべく、目下猛特訓中」

「何を言ってるの。こないだのは、たまたまよ」

「言っとくけどな、たまたまで、三打席一安打に抑えられたことはないんだ、俺は」

「あら、そう?」

「なにが、『あら、そう?』だ。しれっと、言いやがって」

「ほんと、たまたま、調子が良かっただけよ」

「うるせえ。あんな球、俺は高校生でも見たことないぞ。剛速球っていうのは、ああいうのを言うんだ」

「そんな、あたしなんて、ただの女の子なのに」

「なに言いやがる、まったく。バケモノのくせに!」

「お兄ちゃん!」

 

 由理子は直樹の言葉に慌ててたしなめようとした。しかし、朝夢見は笑ったまま軽く受け流した。そんな朝夢見を見て、由理子は何も言えなくなった。

「ふふ、でも、直樹さんは『怪物』なんでしょ?」

「まだまだ。俺は言われたことはあるけど、当たってないな」

「やっぱり、『スーパースター』かな?」

「よせよ。照れるじゃないか」

「いいじゃない。本当なんだから」

「まだまださ。とにかく、誰かさんを打ち負かさないとな」

「誰だ~ろう?」

二人は楽しそうに話している。その雰囲気がいいと、由理子は黙って眺めていた。

 と、直樹が由理子に気づいた。

「どうした?」

由理子は急に声を掛けられて慌ててしまった。

「あ…うん、べつに」

「そうか」

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