第14話 瞬きもせず-14
ため息が共鳴して朝夢見と由理子は顔を見合わせた。そして、どちらからともなく笑いが漏れた。
緑川家のテラスでの時間。穏やかな陽射しが芝生に反射して、そのきらめきが心地いい。何を思うでもなくぼんやりと思いを巡らせていた二人は、何のきっかけもなく同時にため息をついてしまった。それが、おかしかった。
「どうしたの、朝夢見ちゃん」
「由理子さんこそ」
二人はまた顔を見合わせて笑った。
「どうぞ、お先に、朝夢見ちゃん」
勧められるままに、朝夢見は話し出した。話したいから、今日はここに来ていたのだから。
「実はね」と、沢村との一件を話してしまった。
由理子はにこにこしながら、静かに聞いてくれた。それだけで、朝夢見は満足してしまい、ひと通り話し終わると目の前に置いてあったジュースを飲んだ。ふぅっとひと息つくと、由理子の顔を伺った。由理子は両肘をついて重ねた掌に顔を載せて朝夢見を見つめていた。朝夢見はそんな由理子の視線に照れくさくなって、目線を逸らした。逸らした方向から、軽い笑い声が漏れ聞こえてきた。
「おかしい?」
恐る恐る訊ねると、んん、と声が聞こえてきた。
「そんなことないわ。でも、惜しいんじゃないの、やっぱり」
「そ、そんな」
「口では、強がっているけど、本当は、その大学生の人のこと好きだったの。自覚していないけど。そんなことはない?」
「そんなぁ。あたし、好きだとか意識したことなかったから」
「でも、交際申し込まれて、意識し始めた。そして、惹かれていった」
「そんなことない、ない」
「と言いながら、また申し込まれたら、受け入れてしまうかも」
「由理子さん!冷やかさないで」
「あら、冷やかされに来たんでしょ?」
「違うわ。ちょっと…聞いて欲しかっただけ…」
「聞いてもらって、どうして欲しかったの?」
「どう…って」
「迷ってるんでしょ?」
「え……」
「つきあってもいいかな、なんて」
「それはないけど…」
「けど?」
「あたしは、ファントム・レディ。どんな事件に巻き込まれるかもしれない」
「それが?」
「だから、つきあえない」
「どうして?」
「だって…」
「相手の人がそれでもいいって言えば、何も問題はないわ」
「だけど、あたしは……」
「朝夢見ちゃんは?」
ニコニコしながら問いかけた由理子は、次の瞬間、意外な言葉を聞かされた。
「バケモノだ」
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