第13話 瞬きもせず-13


そんな風に言う沢村に驚きつつも、否定せざるを得なかった。

「まさか。うちのバイトの人でも、一番カッコイイよ」

「ありがと。でも、ふられてから言われたら、ありがたいとも、思わねえな」

「ふった訳じゃあない、んだけど…」

「でも、俺じゃ、ダメなんだろ?」

「ダメっていうんじゃなくて…、あたしが中学生で、沢村さんが大学生だから」

「大人になったら、このくらいの歳なんか関係ねえよ。例えば、俺が三十なら、あゆみちゃんはいくつだ?」

「え?」

「あと九年すりゃあ、いくつだ?」

「……二十三」

「結婚してもいい歳だな」

「結婚?」

「例えばだよ」

「……ん」

「ってことは、歳なんて関係ないんじゃねえのか?」

「そんなふうに言われたら……」

「大学生は遊び歩いてる、なんて思われてるのかな」

「え?」

「遊んでばっかりだから、お勉強の邪魔になる、ってことか?」

「そんな…」

「俺は、遊んでるつもりはないぞ。そりゃ、たまには、遊ぶけど。俺は資格取りたいんだ」

「何の?」

「司法書士」

「大学は、法学部?」

「そうさ。こう見えても、堅いんだぜ、俺って」

「ん」

「だから勉強してる」

「ぅん」

「あゆみちゃんが、これから受験で高校行くのも、邪魔することなんかないさ。絶対」

「あ、あの……」

「なんだ?」

「どうして、あたしに、その…、付き合おうなんて…」

「そりゃ、なんだ…」照れながらも沢村はしっかりと言葉を継いで言った。

「あゆみちゃんってのは、見ててかいがいしいっていう雰囲気があるんだ。これまで女なんて、軽いヤツばっかり見てきたけど、あゆみちゃんは、そんな印象がないんだ」

 ―――それは、そうだろう。

朝夢見はそう思ってしまった。

 ―――だって、あたしは、ファントム・レディだから。

言えない。言ってもわかってもらえない。言えば、長くなる。それに、話すのは、やはり、辛い。

 沢村は話し続ける。もう、バスターミナルだ。人も大勢待っている。沢村は周りの目を気にして口を閉じた。朝夢見は、バス停に立った。沢村も付き添って立っている。周りの視線が気になる。でも……。

 バスが来た。朝夢見は、列に並んでゆっくりと乗り込む。乗り際に沢村を見ると、沢村はちょっと手を挙げて、軽く振った。その仕草が印象的だ。朝夢見は目を奪われてしまった。扉が閉まる。窓から覗く沢村の姿は、決して寂しそうでもない。むしろ堂々としている。バスはゆっくりと発進し、沢村の姿が窓の陰に隠れて見えなくなった。つい、窓を追って探しそうになった自分に気づいて、朝夢見は驚いた。

 ―――どうして……。

ためらいながら、まだ沢村のことが気になる。そんな気持ちを抑え込んで、朝夢見は揺られながら空いている席に辿り着き、座った。そして、うなだれるように首を垂らしながら、考えた。

 ―――あたしは……、どう…したいんだろう。

初めてだった。こんな気持ちになったのは、初めてだった。

 ―――どうしたいんだろう……。

バスに揺られたまま、反問し続けた。

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