インターミッション 第1話 - サウスポー

 某月某日――快晴、無風。


 その日も朝夢見あゆみがバッティングピッチャーをやっていた。

 山本が凡打を重ねた後、亮が打席に入った。

 何本か快打を飛ばすのを見て、山本はぶつぶつ言っていた。

「なんであいつが打てて俺が打てないんだろ・・・」

「きっと大木さんはサウスポーキラーなんですよ」と林が言った。それを聞いた山本はブーたれていた。


 「はい、次」と朝夢見が言うと、大柄の選手が右打席に入ってきた。

「よろしくおねがいしゃす!」と言ったその選手は緑川直樹だった。

え、と戸惑う朝夢見に対して直樹は「おねがいしゃす」と繰り返し、数回素振りをして見せた。

朝夢見は少しためらいつつも、「3打席勝負でいいですか?」と訊いた。

「おう、それでいいよ」と直樹は応えた。

高松が審判に入ると、朝夢見は「いきますよ」と言うと、足場を踏み固めなおした。


「本気だな」仙貴がそう呟いた。

傍にいたしのぶは驚いた。

「え、本気って?」

「あゆみが本気で直樹さんに挑戦するってことだよ」

わかりきったことを質問してしまったと思いながら、仙貴の横顔を見上げていた。仙貴は真剣にマウンドの朝夢見を見つめていた。


 高松がプレイと掛け声を出すと、朝夢見は真剣に直樹を見つめた。そしてゆっくりと振りかぶった。大きく胸を張り、その胸の大きさに直樹もキャッチャーの池田も目を奪われそうになったが、次の瞬間には剛速球が投げ込まれた。あまりの速さにキャッチャーの池田が、受け損ねてプロテクターの腹に当てて落とした。

「おい、大丈夫か」と高松がコールも忘れて思わず池田に声をかけた。

「大丈夫です……」と池田が答えたものの、次のボールを受けるのは恐怖を感じているようだった。

「すごい球だな」と直樹は、バッターボックスから外れて素振りを繰り返した。

 仙貴が立ち上がって、ミットを探していると、未来みきがキャッチャーミットとプロテクターを着けてバッターボックスの後ろに走って行った。

 「代わりましょ」と言うと、数回キャッチング練習がてら、朝夢見のボールを受けた。その横では直樹がタイミングを計るように素振りを繰り返した。

 ほっとしてベンチに戻ってきた池田に仙貴はお疲れ様と声を掛けた。池田は腹をさすりながら、「ホントに物凄いよ。本気で投げたあゆみさんは」と言ってベンチに腰掛けた。

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