第10話 瞬きもせず-10



 穏やかな陽射しの下でも、暑さは感じられなくなった。ただ、心地いい。

 図書館を出た由理子は、陽射しに誘われて寄り道したくなった。公園でも廻って帰ろうかと思いながら、野球部のグラウンドに出ると歓声が聞こえてきた。試合でもやってるのかな、と思い近づいてみると、マウンドには朝夢見が立っていた。

 ・・・あぁ、今日は、愛球会の練習の日だったんだ。

そう思ったものの、どうしてこんなに周りが沸いているのだろうと疑問を抱きながら、バックネットに近づくと、打席に直樹が立っていた。

「お兄ちゃん」

思わず口に出してみたが、直樹の顔は真剣そのものだった。マウンド上の朝夢見も真剣だった。どうして、なにをしてるの、と思いながら立っていると、近くにいた女子が近づいてきた。

「緑川さん」

名前を呼ばれても、目線はマウンドから離せないまま、そっちを向いた。そこには、同級生だった三島百合がいた。

「あ、三島さん。これ、どういうこと?」

「あたしもよくわからないんだけど。さっき、来たところだから。で、ちょっと覗いてみたら、直樹さんがいたから、見てたの」

「お兄ちゃん、まさか、朝夢見ちゃん相手に、本気なんじゃないでしょうね」

 由理子が見入っていると、勝負が始まった。朝夢見の剛速球に、直樹のフルスイング、こだまする歓声。グラウンドは異様な熱気に盛り上がった。

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