第6話 瞬きもせず-6

…でも、嬉しかった」

ふと漏らした朝夢見の言葉に由理子は驚いた。

「え?」

「嬉しかった。そうしてることで、由起子先生が、あたしに近づいて…、違うわ、あたしが、由起子先生に近づくの。そして、お母さんにも近づけそうな、そんな気がしたから」

「…楽しかったの?」

「そうだったかもしれない…。実は、ほとんど覚えていないんだ」

「無我夢中だったのね」

「うん。何もかも忘れて、それに没頭してた。そうして、あたしは、ファントム・レディになったの」

「大変だったのね」

「そうだったのかな?それも覚えてない。変なの」

「でも、そんなの聞くと、ファントム・レディって、すごいものなのね」

「ん。でも、本当に辛かったのは、訓練よりも、その後。ファントム・レディになって、由起子先生がいなくなって、ひとりぼっちになってから。あたしがファントム・レディだと知って、ケンカ売ってくる連中が後を立たないこと。嫌でも、争いごとに巻き込まれること。もう平穏な生活は望めなくなってしまったこと」

「朝夢見ちゃん?」

「あたし、かなり暴れてたの。やりたくてやってた訳じゃないけど、でも、由起子先生が転勤になって、自分でも歯止めが掛からなくなったのね。自分の力を持て余していたのかもしれない」

「かなりケンカしたの?」

「かなりなんていうものじゃなかったわ。ほとんど毎日。次々に学外のチンピラがやってくるの。教室に引き込んでたら、バイクでグラウンドを走り回ってクラクション鳴らして、『ファントム・レディ出てこい!』なんてね。みんながあたしを遠巻きにして、白い目で見るの。どんなに普通の学生を真似しててもダメ。無理やり引きずり出されて、みんなの見ている前で大乱闘」

「よく退学にならなかったわね」

「停学にはなったけど、さすがに義務教育で退学にはしにくかったんでしょうね。…結局…あたしもいい気になってたのかもしれない……。ファントム・レディだからって……」

「辛かったでしょ?」

「ん。何よりみんなから怖がられて、白い目で見られて、誰からも話し掛けられることもなくて、ぽつんとひとりぽっち。その時わかったの。由起子先生が言っていたことが」

「…そう。そんなことがあったの」

「だから、こっちに来るように誘われたとき、嬉しかった。由起子先生がいるだけでも。でも…ここでは、できるだけ人とは関わらないように心掛けたの」

「どうして?」

「だって、ファントム・レディの友達なんてことになったら、どんな巻き添えを食うかもしれないじゃない。だから、もう誰とも関わらないように、って決めてたの」

「そうなの」

「でも、由起子先生にそう言ったら、笑われたわ。『できるものなら、やってみなさい』って。

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