第4話 瞬きもせず-4

 季節も移ろい芝生も少し色褪せたように見える。それでも、ここは落ち着く。

 朝夢見はふうっと息を吐いて、頬杖を付いた。

「どうしたの、随分疲れてるみたい」

「ん…、…まぁ、そうなのかな……」

 緑川家のテラスで、朝夢見は由理子を前に気だるい雰囲気で、頬杖を付いている。一面芝生が敷きつめられた庭は、簡素であるだけに一層落ち着く。

「ちょっと…、面倒なことがあって…」

「なに?」

「…あのね」

 朝夢見は問われるままに、沢村のことを話し始めた。由理子は穏やかな笑顔を向け、軽く相槌を打ちながら聞いてくれる。いつもは口数の少ない朝夢見だったが、なぜかつられるように話してしまった。

 ひと通り聞いてもらうと、朝夢見は満足した。

「ふーん、それで、どうして困ってるの?」

「え?だって、相手は大学生だし、あたしはファントム・レディだし」

「いいじゃないの。朝夢見ちゃん、魅力的だから、交際申し込まれたんでしょ?相手の男の人が気に入らないんじゃなければ、別に、問題ないと思うけど」

「でも……、やっぱり、あたし、無理だな」

「どうして?」

「んー、うまく、言えないけど、…ファントム・レディって、そんなもんじゃないように思う…」

遠くを見るようにそう言った朝夢見に、由理子は戸惑いながら両肘をテーブルに付き指を絡ませながら、ぽつりと言った。

「どういうことなの。あたしには、わからないわ」

「あたしにも、わからない…、ほんとのところ」

憂いを帯びた朝夢見の顔を見つめながら、由理子は少し納得していた。

「そう……」

「うん……」

「でも、ミキちゃんは、彼氏がいるじゃない。ミキちゃんも、ファントム・レディだけど」

「うん…、そうね。ミキちゃんって、…そうね、随分、違うわ。奔放で、快活で、元気一杯で、……あたしが、思ってる、ファントム・レディと全然違う」

「あら、朝夢見ちゃんは、どんな風にファントム・レディをイメージしてるの?」

「あたし?あたしは…、そうね、……やっぱり、初めに言われたからな、由起子先生に。ファントム・レディになるなら、覚悟しなければならないことがある、って」

「なに?それ」

「ふふ。きっと、由起子先生は、あたしをファントム・レディにしたくなかったのよね。あんなこと言うなんて。でも、あたし、完全に信じ込んでしまったから、そう思い込んでるのかもしれないな」

「なによ、もったいぶって」

「そんなつもりはないけど。ん、あの時、由起子先生は、こう言ったの」

「あの時?」

「あ、そう。あたしが、ファントム・レディになりたいって言った時」

「ふーん。朝夢見ちゃんから申し込んだのね」

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