第7話 発覚

「美晴ちゃん、こんなこと、私が言ったらいけないけど」


 6月も終わりを迎える頃。



 ちょっと体調が悪いな、って思っていたら、店長の奥さんが事務所に私を呼んで。


「……妊娠、してない?」


「え?」


「つわりはまだみたいだけど、なんとなく」


「……」


 そう言えば、先月、生理、来てなかった。


 瑛比古くんと会うのが楽しくて、忘れていた。


「相手は、あの男の子?」


「……はい」


「これからのこと、ちゃんと考えてくれているの? まだ高校生だし」


「一応、高校卒業したら入籍しようって、言われています」


「そっか、なら、あとは、二人しだいだね。間に合うかな」


 どうだろう? 

 

 避妊しなかったのは、初めてのあの時だけだし。


 たぶん、その時だと思うけど。



 

 私は、中学からの親友で、助産師の佐原サワラミチに相談することにした。


 今年資格を取ったばかりだけど、専門家だし。


 念のため、市販の検査薬で確認して。


 やっぱり、陽性だった。


 っていうか、奥さんスゴイ!


 それから、ミチに相談して。


 なるべく早めに受診するように言われた。



「……え? 予定日、1月?」


「うん……」


「そっか、まずいな」


 困ったような瑛比古くんを見て、不安になった。


 やっぱり、高校生には重すぎるよね、こんなこと。


「僕、誕生日が1月なんだよね。産まれる前に入籍できるかな?」


「……大丈夫、一人で育てるから」


「ちょっと! なに言ってるの美晴さん! 一緒に育てるに決まっているじゃないか! 困っているのは法律的な問題だけだって! 入籍前と後で、何か赤ちゃんの将来に影響出ると困るなってことだけ!」


「え? だって、瑛比古くん、まだ高校生だよ?」


「入籍のタイミングが早くなるだけだよ。できれば出産に間に合わせたいけど、そうじゃなくても、必要な手続きは、きちんとするから」


 法律的なことは、例の明知探偵事務所の所長さんに相談するから、と言いながら、瑛比古くんは私を抱き締めた。


 所長さんの奥さんが行政書士なんだって。


「美晴さん、改めて言わせて」


 耳元で、初めて告白してくれた時みたいに、囁いて。


「あなたと家族になりたい」


「うん」


「僕を、あなたの夫にしてください。あなたのお腹の赤ちゃんの、お父さんにしてください」


「うん」


「……ここに、赤ちゃんがいるんだ」


 そっと私のお腹をさすり、それから耳を当てる。


「……まだ、何にも聞こえないなあ」


「さすがにまだ早いよ。たぶん、今、妊娠3ヶ月に入ったくらいだって。胎動は、5ヶ月とか6ヶ月くらいかな」


「そうなんだ? まだ先かあ。あんまり早く産まれて来ると困るけど、でも早く会いたいな。うん、やっぱり早く産まれて来てほしいな」


「あんまり早くてもダメだよ。できれば予定日まで、ちゃんと育ってからじゃないと」


「そうだね。とにかく無事に産まれて来てほしいな」


 早めに受診するようにとサチに言われた通り、翌日に瑛比古くんは学校を休んで市立病院の産婦人科に一緒に受診してくれた。


 その足で、おばあちゃんの元に乗り込み。


 手にはお見合い相手の素行調査の結果と、私のお腹のエコー写真に、さっき発行してもらったばかりの母子手帳。


 お見合い相手のことなんて放って、おばあちゃんは大喜びだった。


 あと、瑛比古くんが、亡くなったおじいちゃんの若い頃にそっくりだって感激していた。


 写真を見せてもらったけど、似てるのか、よく分かんない。


 でも、おばあちゃんが喜んで瑛比古くんを受け入れてくれたのは、とっても嬉しかった。


「よかったね。美晴ちゃんがあのドラ息子と結婚するかもって聞いた時、どうなることかと思っていたけど」


 お見合い相手、どうやら知る人ぞ知る素行の悪さで、父親が色々もみ消していたみたいで。


 今は結婚して県外にいる店長の末の娘さんと同じ学年だったから、よく知っていたんだって。


 だから、できれば違う相手との出会いがあれば、って思っていて。


 高校生だけど見処がある瑛比古くんとなら、もしかしてって、すがるような気持ちで応援してくれていたって教えてもらって。


 というか、暎比古くんの来店率が上がった時点で、彼の気持ちにも気づいていたみたい。


 うん、奥さん、ホントに見る目があると思う。

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