第6話 告白

「まあ、お見合いまでには調査結果、分かると思うんで」


 あの後。


 土岐田くんは、探偵事務所の所長さんに折衝して、依頼費用を分割払いにしてもらう約束をして。


「でも、しばらく外で会うのは止めましょう。他にも調査を依頼していないとも限らないし」


「うん。でも、何で、土岐田くんは、私が調査を受けているって分かったの?」


「まあ、ガッツリ見られていたんで。強い執着とか、結構気が付くんですよ、僕」


 ふーん、霊以外のことにも敏感なんだ。


「で、その僕自身には身に覚えがないし、でもすごく興味を持たれていたので、美晴さん関係かなって。知り合いじゃないっていうなら、これは身辺調査だろうなって」


「……別に、報告されても良かったのに。土岐田くんとは、何でもないんだし」


「何でもないとか、ひどいな」


 土岐田くんは、傷ついたように微笑む。



「少なくとも、僕は、あわよくばお見合いが壊れたらいいなって、思ってました」


 え?


「だから、ホントは、これからも会いたいです。できれば、人目を気にせず」


「……私も、会いたい、な。ホントは」


「……この近くに、僕の家があるんです。今は誰も住んでないけど。大人になったら住めるように、叔母が手入れをしてくれているんで、まあまあきれいで」


 誰も、いない、家。


 急にこんな話題を出してきたってことは。


「見に行っても、大丈夫?」


「……本気ですか? 一応、僕も、男なんですけど」


 誰もいない家に行きたいって、つまり……そう言うこと。


「門限、7時なんで、それまでは、大丈夫」


 自分でも、性急だと思うけど。


 このチャンスを逃したら、もう彼とは会えなくなってしまいそうで。


「……誤解しないでね。いつもはこんなこと、しないんだよ。私……初めてなんだから」


「……同じく、です」


 真っ赤な顔をして、でも、土岐田くんは、家に連れていってくれた。


 2階建てのこじんまりとした和洋折衷の一戸建て。


 小さな庭もちゃんと手入れがしてある。


 家に入ってから、今度は、土岐田くん、真っ青になって。


「やっぱり、ダメです。色々、準備してないし」


 準備……って、ああ、なるほど。


 高校生なら、そのくらいの知識、あるよね。


 不幸な妊娠を防ぐための、アイテム。

 

「いいよ、そんなの……」


 私は、土岐田くんに、後ろから抱きついた。


「……キスだけ、してもいいですか?」


 振り向くように身をよじって、土岐田くんは、私を抱き締め返した。


「……美晴さん、ずっと憧れていました。ややこしい注文にも嫌な顔ひとつせず、いつも笑顔で応対してくれて。……いつの間にか、好きになっていました」


 耳元で囁かれる、告白。


「本当は、あの時守護霊が助けを求めたんじゃないんです。買い物が終わってからも、店の外であなたを見ていたから、気が付いて……ストーカーみたいですね」


「ううん、嬉しい。私も、土岐田くんがお店に来るの、本当は楽しみにしていたの。……男性として、好きって思ったのは、あの事件の後からだけど」


「……やっぱり、悪いことしちゃったな、アイツらに」


「それはそれよ。悪いことしたのは、あの人達だもん。土岐田くんは悪くない」

 

「美晴さん。瑛比古って、呼んでほしいな」


「てるひ……」


 呼んでほしいって言っておいて、言い終わる前に、瑛比古くんは、私の口をふさいだ。


 とっても柔らかい、唇で。


 ……結局、キスだけではガマン出来なくて。






 何度も謝って来る瑛比古くんに、その度に大丈夫だよって抱き締めて。


 連休中も仕事があったけど、昼休みになると、暎比古くんの家に行って、お昼ごはんを食べて。


 休みの日は、一日中一緒に過ごして。


 キスも何もしなくても、それはそれで幸せだったけど、しても幸せ。


 とにかく、満ち足りていて。


 そんな時。

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