-その7-
「こういう時に言うのもどうかとは思いますが……」
ふたりどころか5、6人まとめて余裕で着替えられそうな六路家の浴室脱衣場で、ブラジャーとショーツという下着姿になった美里が、鏡を見つめながら、傍らで着替える“少女”(無論、聡美のことだ)に、話しかけた。
「ん? どしたの、美里ちゃん?」
バスルームの入口に事情を知るメイド長の麗花が控えて見張ってくれているとあって、聡美は“取りきめ”のことは気にせず、気安い口調で聞き返す。
「聡美お姉様の身体って、とてもスタイルがよろしいですね……」
前方に大きく突き出しつつも、若さゆえか垂れることもなく適度な弾力とハリを持った豊かな乳房が、今は自分の身体に付いていることに、微妙な違和感──と同時に、そこはかとない喜びを感じてしまうのは、10歳と言えど、やはり女と言うべきか。
確かに、「六道聡美の
トップ90センチでDカップのバストはもとより、ウェストも64と太っているという程ではないし、キュッと締まった形のよい89センチのヒップは、じかに男性が目にすれば垂涎ものだろう。身長も166センチと適度な高さだ。
無論、女性の目から見ても、いろいろなタイプの服装を自在に着こなせる魅力的な体型と言って差し支えない。
「え~、そんなたいしたモンじゃないよ。確かに胸は平均より大きいかもしれないけど、それはそれで肩が凝るし……。
それを言うなら、美里ちゃんの身体は、ファンタジーのエルフみたく綺麗だと思うけど?」
こちらはすでにシュミーズやショーツも脱ぎ去り、一糸まとわぬ状態となった聡美が、美里の横に並んで裸体を鏡に写しながら、首を傾げる。
聡美の言にも一理あり、思春期を迎えて、子供から大人への一歩を踏み出しつつある
すんなりバランスよく伸びた手足。折れそうなほどに華奢なウェスト。コーカソイドと見まがうばかりの白さとモンゴロイド特有の滑らかさが見事に両立する肌。
10歳とあって流石に乳房と言える程の隆起は殆どないが、それでもその萌芽が僅かに見てとれる膨らみかけの胸元は、危うい魅惑をたたえている。
「色香」という面で見ればさすがに成人女性には及ばないが、「美」という観点からすれば、これほどの「生きた芸術品」はそうそうお目にかかれないだろう。
さらに言うなら、あの毬奈夫人の娘なのだから、将来性も推して知るべし。
「──そんな、
拳を握り、「美的感覚からして許せない!」とテンション高く力説する聡美に、
「は、はぁ……」と美里の方は戸惑い顔だ。
(そんなお子様体型のどこがいいんでしょうか)
子供は早く大人になりたがり、大人は過ぎ去った子供時代を懐かしむ。
それは、ある意味、どこにでもある光景とも言えたが──ふたりの置かれた特殊な状況が、事態をいささか複雑なものにしているのだった。
「にしても、美里ちゃん、随分ブラの着脱に手慣れてるんだね」
並んで湯船に浸かり、まったりしながら、ふとそんなコトを呟く聡美。
「そう、なのでしょうか? それほど手間取る動作だとは思えないのですが……」
「いやいやいや。わたしなんか、初めてホックのあるブラ着けたときなんて、なかなか巧くとめられなくて、四苦八苦したんだよ。流石にひと月もしたら慣れたけど」
7、8年前に過ぎ去った思春期の記憶を聡美は手繰り寄せる。
「もしかしたら──習慣的な動作に関する
「あ~、条件反射云々ってヤツだっけ──ちょっと違うか」
言われてみれば、確かに聡美も、本来の身体とは歩幅から何からまるっきり違うはずの美里の身体になっても、普通に歩いたり動けたりしているし、案外美里の意見が正しいのかもしれない。
(それにしても……)
浴槽の中で、珍しくくつろいだ表情を見せる美里の様子に、悪戯心を刺激された聡美は、そーっと手を伸ばして……。
「えいっ」
──ツン、ツンッ!
「キャッ! な、何するんですか、聡美姉様!?」
いきなり胸を突つかれて、さすがに驚いたのか、美里が胸を押さえて身をよじる。
「いや、普段、自分のオッパイを客観的に見る機会なんてないから、好奇心を刺激されて……」
悪びれもせずに美里の前に移動した聡美は、今度はぐわっと指を開いた両掌で、本来自分のものである──そして今は美里の首の下についている大きな乳房を掴む。
「ひぅッ!」
「おお、自分ではたいしたことないと思ってたけど、正面から見ると確かにおっきいかも。この手じゃ、とても掴みきれないね」
呑気な感想を漏らしながら、ムニムニとオッパイを揉む聡美。さらに、思い切って、その谷間に顔を埋めてみる。
「わ! ふかふかだぁ。男の人が巨乳が好きってのもわかる気がするかも」
美里の方は逃げようとするのだが、小さなその手で乳房を優しく触られ、吐息が乳首に吹き掛けられるだけで、何かモヤモヤした感じが胸から湧いてきて全身へと波及し、腰砕けになってしまうのだ。
それにつれて甘い疼きが腰の奥から広がる。ここが湯船の中でなければ、彼女の下肢の合わせ目が潤っているのがわかったかもしれない。
「や、やめて……やめなさい、“美里”!」
未知の感覚にパニクった彼女の口から、意図せず鋭い制止の言葉が迸る。
「!」
一瞬ビクッと動きを止めた少女は「あ、やり過ぎた」といった表情になって、おずおずと彼女の胸から身を離した。
「もぅ! お風呂はくつろぎの場所ですけど、調子に乗り過ぎですよ」
「てへっ……ごめんね、“聡美お姉ちゃん”」
少女が素直に謝ったので、彼女の方もそれ以上、叱責することはしなかった。
さて、その後はふたりとも和やかな雰囲気で背中の流しっこをしたり、本物の姉妹さながらに仲良く入浴を楽しんでから、風呂から上がった。
髪を乾かし、夜着に着替えてから、仲良く手をつなぎ、美里の部屋へと戻るふたり。それは、事情を知る者から見ても知らぬ者から見ても、微笑ましい光景だった。
──しかし、その裏で、これまで知らなかった未知の感覚が、ふたりの奥底に芽吹いたことも事実だった。
(さ、さっきのアレが、その……「おとなの女性」が感じるHな感覚、なのでしょうか……)
成熟した女性としての性感の一端を、10歳の身で知ってしまった美里──“
聡美”はもとより。
(うーん、いくら、小学生の立場になってるからって、ちょっと悪ノリし過ぎたかなぁ……でも、聡美お姉ちゃんの胸に埋もれるのって気持ちよかったなぁ。戻る前に、またやってもらおーっと)
“美里”の方も、何やら「姉に甘える」ことの愉しみを知った様子。
このハプニングが、今後のふたりにどのような影響をもたらすのか、それはまた後に語られる事である。
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