第7章 錆色の調教者
第1話 セッティング
インビジブルの拠点を飛び出した後、昴は暫くトラックの荷台にうずくまっていた。
死の運命が断ち切られたことで昴は死神の姿を見ることが出来なくなっていたが、アザミが昴のスマホにBluetoothを使って文章を送り、連絡先を交換したことでなんとか文章でのやり取りが可能になった。
昴はアザミの指示で、信号待ちのタイミングでトラックから降り、近くにあった高層マンションの一室に転がり込んだ。
この部屋ならインビジブルに見つかる可能性は低いと昴が言うので、アザミ達はタブレットの『
死神局に戻ったアザミは局内の端末で仕事終了手続きを進めた。
アザミのタブレットには初めて『
全てを終えた頃には深夜〇時を過ぎており、うさぎはアザミが端末を操作している数分の間に床にうずくまって寝てしまった。
仕方がないので、太陽が背負って家まで運ぶことにした。
「それで、Cherryを救った理由は教えてくれるんだよね?」
「ああそいつは説明するが、その前に……」
死神局からの帰り道、アザミは自分のタブレットを立ち上げて手早く操作した。
歩きながら画面をちらりと覗き込むと、どうやら太陽のタブレットにアクセスしているらしいと分かった。
(そういえば、誰に何を吹き込まれたのか調べるって言ってたっけ……)
昴の運命を変える直前のことを思い出す。
太陽はアザミの急激な心変わりの原因がわからず、智里の言うように世界を自分のものにしようとしているんじゃないかという懸念から、なかなか昴の運命を変えようとしなかった。
アザミからすれば、太陽の心変わりこそ気になるのだろう。だからタブレットに記載された記憶を見ようと思っているのだろうが……。
(鳥海さんが心配してたことがバレたら、影咲さん、鳥海さんに何かするかもしれない。そうなると凄く申し訳ないけど、誤魔化す方法なんて僕には……)
「チッ、あいつかよ」
ところが、太陽の心配とは裏腹にアザミは顔をしかめてタブレットを閉じた。
しかもどういうわけか追求してこない。それどころか嫌悪感いっぱいに顔を歪め、避けているようだった。
「余計なことしやがって、あのメガネ。あいつ何なんだ、一体……」
「え? メガネって確か……」
「事情はわかった。奴の言葉に耳を貸す必要はねぇ。わかったな」
「う、うん……」
一体何の話をしているのかはわからないが、ひとまず智里に何か影響が及ぶことはなさそうだ。太陽はそれ以上深入りすることはやめ、アザミに話を合わせることにした。
家に帰ると、アザミは何を思ったのか突然寝室にある収納を物色し始めた。
太陽が止める間もなく、上着やバッグ類、それから丁寧にケースにしまっていたプラモデルやボトルシップが太陽のベッドに放り投げられていく。
もう少し丁寧に扱ってほしいと心の中でぼやきながら、太陽はアザミの様子を見守った。
「何を探してるの?」
「確かこの辺りに別のゲーム機があったんじゃないかと思ってな」
「WiiUとDSならあるけど……」
「出してくれ」
新しいゲームでもやりたくなったのだろうか? ひとまず言われた通り、ブラザーから譲り受けていたゲーム機をベッドの上に出した。
アザミはゲームパッド──WiiU専用のディスプレイ付コントローラーだった──を手に取ると、興味深そうに調べ始めた。
「カメラとマイクも内臓されてんのか。コントローラーにしちゃあ機能が多いな」
「それ、本体に繋げばビデオチャットとかも出来る奴だから。勝手にソフトをダウンロードしないって約束するなら使ってもいいよ」
「心配すんな。そんな使い方はしない」
「そんな使い方……?」
「本体はこっちの白い箱だな。なぁ、WiiUって無線接続出来るのか?」
「出来るけど」
「よし」
アザミは突然大鎌を取り出すと、大鎌の先でWii本体の外装をさっくりと切った。
「なんてことをするんだ!?」
「見てわかんないのかよ。分解してんだよ」
「なんで分解してるんだって聞いてるんだ!」
「別に一台くらいなくてもいいだろ? パックマンならPS4で出来るんだし」
「パックマン以外にもゲームはあるんだよ! ああもう、これじゃあプレイ出来ないじゃないか!」
「別にいいだろ。タンスの肥やしになってたんだから」
そう言いながら、アザミは大鎌の先端を器用に変形させ、ゲームパッドのねじを外してカバーを外す。
「メチャクチャ分解してる! これすっごく高いんだぞ!?」
「高いから改造してんだろ。とりあえず本体のパーツを入れてと……」
アザミはWiiU本体から取り出したユニットをゲームパッドに差し込もうとする。しかし外部のパーツが入るスペースがあるはずはなく、アザミは顔をしかめた。
「おい、全然入らねぇぞ。設計ミスだろ」
「そりゃあ本体の中身を入れるような作りじゃないからね……」
「この! 入れ! この! この!」
「だから力任せにねじ込んだら壊れるって! もう壊れてるけど!」
バキッと嫌な音がしたかと思うと、本体から取り出したユニットがゲームパッドの中にスッと差し込まれた。
ひええと太陽が青ざめる中、アザミは満足げにベッドに腰掛けると、細く分岐させた大鎌の先端でゲームパッドの中身をカチャカチャと弄った。
「LANアダプタは入れたから、これで電波も拾えるようになっただろ。あとはシステムを弄って……」
アザミはゲームパッドのカバーを閉じると電源を入れ、コントローラーのボタンをいくつか長押しして白い文字を表示させた。
そこから先は故障した時にしか現れなさそうな、黒地に白い英数字が並ぶ解読不能な画面が表示された。
「これで設定はいいはずだ。あとは再起動して……」
電源を入れ直すとゲームパッドの画面に処理進捗度を示すバーが表示された。
進捗度が100%になったと思うと画面が一瞬ブラックアウトし、アザミの顔が映し出された。
「え? もしかしてこれ、テレビ電話?」
「ああ。タブレットを使う手もあったんだが、どうやら死神裁判で証拠として扱われるくらいには内容が終導師達に筒抜けらしいからな。あいつとの話し合いはこっちでやる」
いつの間にシステムを作ったのだろうか、アザミがコントローラーのスティックでカーソルを操作すると、画面下部に音量調整やデータ送信を可能にする様々なボタンが現れた。
アザミが下部のボタンの中から『招待』というボタンを押すと、画面の中央に『ID?』という文字列と文字を入力出来る白い四角が現れた。
アザミは音声入力機能を使い、白い四角に『CHERRY1613』と入力した。
画面に接続中の文字が表示され、暫くすると画面が左右に分割され、右側にアザミの顔が、左側に誰かのつむじが映し出された。
「おい、Cherry。聞こえるか?」
「あ、はい。聞こえますよ、PACさん」
つむじが上がると、昴の薄い顔が現れ、情けなさそうに笑った。
太陽は目を丸くした。本当に現世とのテレビ電話が可能になっているらしい。
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