デス・リベンジャーズ――死の復讐者達――
星川蓮
序 天才少女の死
世の中には二種類の人間がいる。
一つ目は食われる側の人間、もう一つは食う側の人間。
あらゆる点において命というのは不平等に出来ている。
性別、体の丈夫さ、容姿……挙げればきりがない。
割れた窓ガラスが散乱する中、ガクリと膝をつく少女。
彼女もまた食われる側の人間だった。
「まさかあのパックの正体が、こんな可愛らしい小娘だったとはなぁ」
腰まで伸びた黒髪をグシャと掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。少女は憎悪に燃える黒い瞳で、目の前の男を睨み返す。
少女の住むシェルターが反社会的勢力の末端の男達に襲撃されたのが五分前。立て続けに銃声と爆発音が鳴り響き、各所に配置されたSP達は尽くやられてしまったらしい。下卑たチンピラ風情に選りすぐりの護衛達が呆気なく殺された。
奇跡、いや悪夢だ。
そしていつものようにベッドに並んだ五つのディスプレイと睨めっこしていた少女は男達に追い詰められ、抵抗した結果男の逆上を買い、窓ガラスに頭を叩きつけられたのだ。
「いいねぇ、その反抗的な目。そういうのそそるんだよなぁ、俺。ゾクゾクするぜ」
男の手がスカートの中へ入れられ、いやらしい動きをする。少女はハッと息を呑んで手を押さえた。
「触んな!」
「どうせこの後、この家と一緒に丸焼きにされるんだ。だったら死ぬ前にいい夢見させてやるよ。あ、それとも、君は感じることすら出来ないのかな? パックちゃん?」
黄ばんだ歯を剥き出しにし、男は覆いかぶさるようにして少女を押し倒す。
世の中は不平等だ。
男と女、大人と子供、体格の善し悪し。
体の大きな成人男性を前にして、月のものが始まったばかりの少女はどう立ち向かえばいいと言うのだろう?
コツン、コツンと硬い靴音が近づいてくる。ドアの方へ視線を移すと、修道服のようなローブを着た女がいた。
本来白いはずの襟元は目が覚めるような深紅に染められ、黒いヴェールは被らずケープ代わりにしている。女の手には身の丈ほどもある深紅の大鎌が握られており、その刃は飢えた吸血鬼のように鈍色の光を放っている。
心臓がドクンと痛いほど脈打つ。少女は知っていた。彼女は死神だ。
(マジかよ。このまま死ぬのか、アタシ……)
深紅の女は事実を突きつけるように足を進める。少女は気が抜けたように脱力する。
「アニキ、サーバールームの機器は全部壊してきました! って……!」
部屋に入ってきた男の仲間二人は、少女に覆いかぶさっている男を目にし、ニヤリと口角を吊り上げた。男は恥ずかしげもなく笑い返すと、欲望まみれの表情を浮かべ、自分のベルトに手をかけた。
「なぁ死神サンよ。アンタらの正体は自殺した人間だって話は本当か?」
問いかけても死神は答えない。これから繰り広げられるであろう惨劇にも興味がない様子で、さっさとくたばれとでも言うように大鎌を手に叩きつけている。
少女は徐に窓ガラスの破片を拾い上げる。手に取ると、鋭利な割れ目に触れた指から血が滴った。そのまま血まみれになった手を自分の首筋に添える。僅かに死神が息を呑む音が聞こえた。
(やはりこれはアンタらにとっては不都合らしいな)
少女は黒い笑みを浮かべる。そしてガラス片を思い切り首筋に深く刺し込んだ。
「何やってんだ!」
ガラス片を引き抜くと、真っ赤な飛沫が吹き出し、鉄の臭いが充満した。
急速に脳が血を失い、頭がズンと重くなる。しかし少女は歪んだ笑顔を崩さない。
「一つ……いいことを教えてやるよ。世の中は不平等だ。アタシも随分と不平等に苦しめられてきた人間さ。だがあらゆるものが不平等だったお陰で、アタシは天才になったんだ」
死神は目を見開いて一歩、二歩と後退し、逃げ出すように部屋を去った。
少女は薄れゆく意識の中、震える腕を上げ、男の顔を真正面から指差した。
「キサマも、キサマも、キサマも! 全員顔、覚えたからな。必ず復讐してやる。覚悟しとけよ!」
最後にもう一度嗤うと、少女は血だまりの中に突っ伏し、ピクリとも動かなくなった。
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