2
型抜きの女王陣営の声の波と、ヒットマン陣営の声の波が大きくぶつかっていた。暑さを追い立てるような熱気だった。まるで学校の体育祭。紅白歌合戦。ふとん太鼓なんてものよりも先にここで戦争が起こってしまいそうだ。特に渦中最奥の二人はピーチクパーチク罵りあっている。
しかし、そんなときだった。
「
歌を詠んだ淡い色の短冊がひらりと空気を割き、消えたと思った瞬間にその場を犇めかせていた声がぴたりとやんだ。
気圧された、とかそんな曖昧なものではなく、物理的に。身体的にと言ってもいいのかもしれない。型抜きの女王の口を縫いつけられたように少しの隙間さえもできずに開かなくなった。彼女は口を開けようと表情筋が引き千切れそうなほど抵抗したが、それに伴って体が伸びをするだけだ。一言だって発せられない。
「通行の邪魔だって自覚はある? 純粋なる
その中で一人、当然のように声を発したのは、先ほどの歌を詠んだ少女だった。
山吹色の帯が調和する若草色の浴衣を着ている。和柄の髪飾りでアップにされた髪の毛は都会のファッションモデルのようにくるくると巻かれていた。大人になってもしていたらキャバ嬢だ。けれど、その髪型にも負けないはっとするような
彼女は一口食んだチョコバナナを型抜きの女王とヒットマンに向けた。
「いい大人した二人がなんて体たらくなの」
型抜きの女王もヒットマンも顔を険しくさせる。口を塞がれているからなにも言えないが、きっと解放されれば罵詈雑言が飛びだすだろう。顰めた眉は少女を責めきっていた。
「騒ぎたいならよそでやって。少なくとも、店を隔てるこの道の真ん中でやっていいことじゃないでしょ? おわかり?」
「――――っ! ――、――!!」
「ああ、そういえば話せないんだった」
音もなく抗議する二人を見て、少女は思い出したようにそう言った。それから、恩情でもかけるような声で「いとをかし」と呟いた。その瞬間、封印でも解けたように、さっきまでの賑わいが息を吹き返す。
「キリヨ! あんた、いくらなんでも無理矢理黙らせるこたぁないでしょ!」
「どうせ一言訴えたって私の声なんて聞こえなかったじゃない。祭りを楽しむのは結構だけど、お二人のような楽しみかたをしない人間もいるってことを忘れないようにね」
その言葉に、型抜きの女王もヒットマンも顔を苦くした。
実際、私以外にも、さきほどの半乱痴気騒ぎに怯えていた者が少なからずいた。キリヨと呼ばれた威風堂々とする少女の背後に、その友達であろう少女たちと、子供連れの大人が何人ばかりか、不安げな顔で控えていたのだ。
「どれだけ野蛮でもお二人は先輩。私の言うことがいかに正しいかくらいは、わかっていただけて?」
キリヨは淡い色をした三枚の短冊と筆ペンを威嚇するように構える。
躊躇うような表情をしたあと、型抜きの女王とヒットマンはがっくりと項垂れた。
するとさっきまで二人を煽っていた人だかりがわっと歓声を上げる。甲高い口笛が音頭のように飛び交い、野太い声で称賛が贈られた。
その全てをキリヨは当然の面持ちで受け止める。
「えっ……なに? 何者なの……?」
混乱する私の呟きを拾った型抜きの女王が、囁くように私に教えてくれた。
「あいつは
「あの歌の書かれた短冊は?」
「天恵制度で得た才能。一昨年の神夏祭で神様の宝物を見つけたのはキリヨだった。キリヨはその力を使って、ふとん太鼓を成敗したってわけ」下唇を突き上げるように、ぶちぶちと文句っぽく垂れる。「鬱陶しい才能だよー、ありゃ。実現・具現の才能。短冊に書いた歌の通りになるの。風情があるってコアなファンがついたけど、あたしに言わせりゃあんなのただのかっこつけだね」
「へえ……」
「すんごい厭味なやつだったでしょ、あいつ。親が牽牛織女だってんで鼻にかけてんの。はんっ、なにさ! 織姫と彦星の子供だからってえらそうに! どうせ七光りでしょ! 大体、七夕祭りならともかくこれは神夏祭っ! 年に一度の無礼講っ! 纏代周枳尊もなんでキリヨなんかを野放しにしておくかなあ、もうっ!」
私怨が混じってきたようなので右から左へと流しておく。
型抜きの女王はそんな私に気づかず、まだ荒んだことを紡ぎながら地団駄を踏んでいた。
私は開いた道を堂々と歩く桐詠を目で追いかける。彼女は背後に控えていた友人に話しかけられているところだった。
「ありがとう桐詠ちゃん」
「やっぱり桐詠ちゃんはすごいねー」
「ねえ、今年はふとん太鼓の成敗に参加しないの?」
「えぇえー、別にいいよ」友達の前だからか、崩しがちな態度を桐詠は見せた。「今年はみんなでお店回りたいし……去年はチョコバナナ全制覇できなかったからなあ」
「でも、今年も桐詠ちゃんなら絶対倒せると思うの!」
「一昨年の桐詠ちゃんかっこよかったよねっ」
「ねーっ」
友人たちはそうだそうだと頷きながら、憧れと期待の目で桐詠を見ていた。彼女はその目に押し上げられ、気分が高揚したのかもしれない。さっき型抜きの女王とヒットマンの前で見せたような堂々とした色がその顔に射しこんでいく。
「ふうん? なら、私も今年は参加しようかな」
追うのをやめて、私はラムネをくっと飲み干した。
中のビー玉がカラコロと音を立てるだけになる。
どうしてあの子は、あんなに自信に満ち溢れているんだろう。あんなにたくさん友達もいて、楽しそうに祭りも回っていて、それで、神化主なんていう大層なものにもなって。
祭りの賑やかさが、どんどん私をどん底にまで突き落としていく。
私、一人ぼっちで、はぐれてる。これから私はこんなところでやっていかなくちゃいけないの? 身の程知らずだって、笑われちゃう。もしかしたら、この型抜き屋にいるひとたちだって、あれ、あの子一人ぼっちだって、心の中では笑ってるのかも。そういうふうに夏愁は止まらない。
居心地が悪くなって、私は型抜き屋を出ることにした。お金を払う前だったので、すんなりと出ることができた。
ラムネが飲みたくなった私は、スマートフォンを開いてアプリを起動させる。マップを展開すれば現在位置が把握できた。目的のワードを検索すればその位置まで特定できるらしい。検索ワードの欄にラムネと入れれば、すぐにラムネの打っている店がチカチカと光りだす。
いつまでも空になったラムネの瓶を持っているのが嫌で、次に検索ワード欄にごみ箱と入れた。簡易のごみ箱が設置されている場所が点滅。本当にこのアプリは便利だ。
一番近くにあったごみ箱に瓶を捨ててから、ラムネを目指して進んでいく。
私は、そのラムネを飲み終える前にも、帰るつもりだった。
引っ越してきたばかりの新しい家を出た時刻を考えれば、滞在時間としては上々だ。これだけここにいたんだから、親も満足してくれるはず。そろそろ草履の鼻緒が足の指の間に食いこんでくるころ。靴擦れで痛くなる前に帰りたいのが本音だった。巾着の中に絆創膏はあるけど、足の皮膚というものは絆創膏の粘着にいとも薄情であることを、私は知っている。草履に巻きこまれてダンゴムシになる絆創膏の末路が、ありありと浮かびあがった。
「ラムネ一つください」
「はいよ」
私は店番をやっていた小学生くらいの男の子にお金を渡す。
男の子がラムネの瓶が掻いた冷たい汗を拭ってくれているときに、表参道からたくさんの人が押し寄せてきていることに気づいた。みんな、焼きそばやフライドポテトなどの食べ物を持って、奥のほうへ進んでいく。本殿や幣殿のほうかとも思ったが、耳をすましてみたところ、神楽殿という単語が聞きとれた。他県から来た観光客らしき人間はパンフレットデバイスを見ながらそこを目指しているようだった。本格的な行事が催されるのだろう。その人の多さと言ったら、さきほどの型抜きの女王とヒットマンの乱痴気騒ぎや天ノ川桐詠の歌詠みを大きく上回る。
「どうぞ」
男の子が差しだしてくれたラムネを受け取った。
離れたところでラムネを開けて、ぐびっと喉に入れる。淡い針のある甘さが心地いい。
ある程度見回ったし、雑踏にも気疲れてきたし、そろそろ帰ろうと踵を返す。表参道は人の波が凄まじかったが、鳥居のほうまで行くといっそ静かだ。他の出口を探すよりもずっといい。ラムネは帰りながら飲もう。
長い道から露店が消え、常盤の緑の葉が茂ってくる。両端に立てられた格子状の柵には無数の
風車の壁に囲まれながら歩みを進める。
鳥居を
「ぅわああっ!」
パフュームとは程遠い、本気でお腹から出したような力強い悲鳴が出た。
無理もない――虫や木の葉ならともかく、降ってきたのはそれよりも格段に大きい人間の少年だ。
私は慌てて頭上を見上げる。
視界に移る真っ赤な鳥居。
まさかとは思うけどあそこから落ちてきたの? ありえない。鳥居の通常なんて知らないが、神禍神宮の鳥居はかなり大きいように見える。てっぺんの笠木まで少なくとも二十メートルはある。そんなところから落ちてきたなら、ただじゃすまない。
にもかかわらず、目の前の少年は膝の筋肉を伸縮させて上手に衝撃を逃がしているように見えた。怪我一つなく、着ている紺色の浴衣にも汚れ一つない。その分厚い下駄にしたところで、鼻緒はきっちりと結ばれたまま、歯も折れたようにも見えない。
彼は私の目線より少し下まで屈みこませていた体をふわりと起こし上げる。
「せっかくのラムネなのに、もう帰ってしまうのかい?」
狐面。それも、露店で売っているような安っぽいものではない、上等そうなもの。彼の顔の上半分はそれで覆われていた。下半分のない、珍しい形の仮面だ。ちょっと変だとさえ思う。だけど、やっぱり男の子って、と呆れさせてくれない妙な雰囲気を持っていた。
「君はそのラムネの炭酸よりも鋭い。もしかして、君にも風の声が聞こえたのかな」
私は引き続きまいってしまっていた。
上から少年が降ってきて、無傷で立ち上がって、おまけに話しかけられたのだ。
脳みそが追いつかない。
いきなり話しかけてきたのは型抜きの女王も同じだったが、あのときとはシチュエーションが違う。私の背中は浴衣の奥で驚きの汗で湿っていた。
「おや? ちゃんと聞こえてるかな?」
彼は困ったように、狐面に覆われていないスッキリした輪郭を人差し指で軽く掻く。
返事をしたほうがいいんだろうか。でも、なんて答えればいいんだろう。そもそも顔が半分隠れているから
「そう。よかった」蠱惑的な口元が柔らかに笑む。「それで、もう帰るのかい?」
「……えっと、そうだけど」
「どうして? もったいないよ。神夏祭はこれからだろ。まだ去年の神化主による神楽の奉納もふとん太鼓の解放も行われてない。この神社はね、夜になると特に美しくなるんだ。君はこの祭りの半分も楽しんではいないよ」
狐面の奥に見える目が怖くて、私は思わず顔を逸らす。斜め下をぼんやりと見つめながら「いや、でも」とか細く呟く。
「それに君は、最近越してきた御風氏のお嬢さんだったね。初めての神夏祭なのに、もったいないと思わないかい?」
私はおずおずと顔を上げる。
大人のひとならともかく、どうしてこの謎の少年が私のことを知っているんだろう。もしかしてどこかで会ったことがあるのかと思ったが、とんと覚えがない。私はこの祭りに来るまで同い年の子と出会ったことがないし、来てからも同じだ。
表情から私の心中を察したのか「怪しい者じゃないさ」と語りかけるように言った。
「この二日のあいだなら、僕の耳は誰よりもいいんだ。店主と型抜きの女王が話しているのが聞こえたんだよ」
彼は狐面にとっての耳のあたりに両手を持ってきて、ぴょこぴょこと折り曲げた。狐というか兎っぽい、と私は思ったが、彼はそのことに気づいていないようだった。
「それで、三度目になってしまうけど……本当に帰るのかい? 飲み始めたばかりのラムネなんて持って。ここで帰ったら、きっと後悔するだろうよ」
どうして彼はこんなにも私を引き留めるんだろう。
大してかわいくもない私は、女の子としての魅力も低く、こんなふうにちょっかいをかけられることなどありえないし。むしろその逆で、地味な女の子だからって、なめられているのだろうか。
だけど彼は、私の不可視の欠点を目聡に見つけ、からかって遊ぶような人間にも見えなかった。こうなると、彼を疑ってかかる私のほうがおかしいような気もしてくる。私は本当に、ここで帰ったら後悔してしまうのかな。
「どう?」
彼は念押しするように首を傾げる。
戸惑った。けれど、このタイミングで、私は引っ越してきた人間だと彼が知っているのを思い出し、返答に悩む必要がないことに気づいた。
「私、あの、まだ友達がいないの。一緒に回る子がいないの。だから帰ろうと……」
見たところ彼も私と同じ学生だ。少なくとも、こんな楽しげな雑踏に溺れながら友人もなしに回るという苦行を、想像できない立場ではないだろう。この町に来たばかりなのだから、理由としても納得がいく。言葉の響きよりもみじめな気分にはならない。
「ああ、そういうことか」
彼は得心がいったように頷く。
それじゃあ、と無理にでも別れようとしたとき、彼は私の予想を覆す反応を示した。
「なら僕と一緒に回ろうか。まずは神楽殿だ」
ぎょっとした。魚の帽子を被っていたらもう二つはぎょがくっついている。
彼はなんでもないような素振りで鳥居を潜り、私が辿った表参道を引き返していく。
私は呆然と立ちつくした。歩いていく彼を振り返る。
どうしよう――黙って帰るなら、視線の交わらない今のうちだ。このままここにいてもみじめな気持ちになるだけだ。楽しいだなんて素直に受け止められない。でも、どうしよう、自意識過剰でも思いこみでもなく、あの少年はすっかり私と回る気でいるのに。勝手に決められたことだけど、無視するならするで申し訳ない。意気揚々とした背中がどんどん遠のいていく。カラカラと鳴る下駄の音が、憎らしいほど私を急かした。
私は踵を返して彼を追う。
「ま、待って」彼に追いついてから続ける。「本当に行くの?」
「もちろんさ。大丈夫。最前列は埋まっているだろうけど、神楽殿は大きいから遠くからでも見える。そのあとすぐに幣殿からふとん太鼓が解放されるんだ。この二つを逃しては神夏祭は楽しめない」
そんなこと聞いてない。
距離を詰めるために私はせっせと足を動かした。体が弾むたびに手に持ったラムネがこぼれてしまう。手をぺろぺろと舐めれば振り向いた彼が「猫みたい」と笑った。
「飲んでしまったほうがいい。神楽の奉納は人でいっぱいになる。あっ、そこの段差には気をつけて」
彼は私の足元を気遣って注意をしてくれた。いままでに会った男の子の中で誰よりも紳士的だと思った。行動に見えるよりも、彼の言葉には強制力がまるでなかった。同年代の男の子にあるような粗野っぽさは見られない。ミステリアスな雰囲気。
「ところで、お互いに自己紹介をしてなかったね。君の名前は?」
「……御風すず」
「清らかな名前だ。僕は
此の面は存外馴れ馴れしく、私の名前を呼び捨てにした。
だから私も、心の中で呼び捨てにするけれど、実際に友達のようにそう呼ぶことはできなかった。
▲▽
奉納はとっくに始まっていた。
高尚な不協和を響かせる雅音はどうやら佳境に入ったらしい。緩やかにも関わらず雅さを脱ぎ捨てるほど力強い太鼓の音が鳴った。体の芯や鼓膜を震わせる迫力。
神楽殿は満員御礼だった。みんなムービーや写真を撮るためにスマートフォンを掲げている。でもそのせいで肝心の殿の中が見えない。私と弧の面は完全に出遅れたのだ。
音楽を聞くだけじゃつまらない――ため息をつきかけた私の肩を叩き、弧の面は「こっち」と神楽殿から離れた石段を指差した。
なるほど。石段の上から見ようということか。
人の波から外れて私たちは石段へと向かう。
弧の面はジャンプして器用に飛び乗ったが私はできなかった。浴衣の裾が阻むように足の動きを制限し、上手く登れない。そんな私の手を掴んで弧の面はぐいっと引っぱり上げる。勢いのついた体は容易く石段に乗った。私は振り向いて神楽殿を見遣る。
舞っているのは白い
英紙颯爽とした舞姿だ。此の面が見せたがったのも頷ける。振るわれる鈴木の音が耳から離れない。じんと染み渡っていく。思わず痺れるような神々しさがあった。神楽舞をする少年が、その空気に呑まれていないのがまた見事だった。ギラギラと光沢する紙吹雪、きらびやかな帯のような
でも、気になったのは顔の下半分を覆う仮面だ。初めは神楽舞の道具の一つかと思ったけど、きっと違う。遠目からではただ鼻と口元を覆う仮面にしか見えないが、よく見ればそれが狐の形をしているのがわかる。狐の口元。真横から見れば不自然なほど突き出た鼻の形。まるで此の面の狐面の片割れのようで、私は驚いた。
雅音と同時に舞も終わる。たくさんの拍手が舞を踊った少年に贈られた。私も此の面も拍手する。実に見事な舞だった。
「毎年、その昨年にふとん太鼓を成敗した神化主が神楽を舞うんだ。去年は第五十八回神化主の天ノ川桐詠。彼女の舞も見事だったよ。ご両親の慶祝もあってか、淡い宵闇の空に大量の流星群が降ってきてね。綺麗だった」
「でも、本当に、すごかった。これだけ人が集まるのもわかるよ」
私がそう答えると、此の面は「それだけじゃないんだ」と妖しい笑みを浮かべた。
シャラン――ともう一つ鈴木が鳴く。
すると、持っていたスマートフォンがバイブした。
私のものだけではない。その場にあった全ての端末が震動する。いっそおぞましいほどで、私は固まってしまった。けれど、人々の表情は、とてもわくわくしている。
「お待ちかね。あと十秒だ」此の面はけたけたと笑う。「神楽の奉納に人が集まるのは、去年の神化主の舞を見るためだけじゃない。マップを見ればわかると思うけど、この神楽殿は幣殿とけっこう近いんだ。けれど、近すぎない。程よい距離を保っている。そして解放は、神楽の奉納の後、午後七時ジャスト」
此の面が幣殿の方向を指差した。
私はそちらをじっと見つめる。
「――ふとん太鼓の成敗の開始さ!」
大きな獣が戸を蹴破ったようなとんでもない音が響いた。メキメキッと木材の繊維を引きちぎり、金属の錠さえも食らいながら、白い紙吹雪を散らしてそれは上空へと躍り出る。
噂通りの立派な山車だった。彫り物も優美で鮮やかだ。しかし、本来なら何十人もの手で担がれるだろうその太鼓台は、独りでに動いていた。金色の
神楽舞を見ていた観客たちは歓声を上げた。中には雄叫びを上げてふとん太鼓が向かった先へ駆けていく者たちもいた。賑わいながらもどこかゆったりとしたテンポだった祭りの雰囲気がガラッと変わる。
貝笛のようにスマートフォンがバイブした。
祭り専用アプリを起動すれば、解放されたふとん太鼓の中継が始まっていた。
『いやあ、今年も始まりましたねー』
『やっぱりこの時間になって初めて神夏祭が始まった、って感じがしますよね』
『わかりますー! おっと、申し遅れました。今年のふとん太鼓の実況も、私、第五十回神化主、通称・韋駄天が務めさせていただきます。解説はお馴染みのこの方! 神禍神宮巫女歴四十五年! 通称・お
中継画面には
その光景に、私と一緒に画面を覗きこんでいた此の面が口笛を吹く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます