情報屋
センティッドは繁華街の駐車場にバイクを停めると繁華街の中を歩く。まだ昼間にも関わらず居酒屋には酒を呑む連中がたくさんいて喧騒に満ちていた。
露天商や店の客引きを無視してセンティッドはあゆみを進める。そしてある店の前にたった。看板には『新鮮な水産物を食卓に 水産物仲卸ウニ』と書かれている。店の前の水槽の錦鯉を横目にセンティッドは店内に入る。
店の中には大量の水槽、そして中には水産物がいた。
レジの奥にたっている自動機械(オートマタ)を無視してセンティッドは備え付けの椅子を持つとある水槽の前に座る。
非売品のシールが貼られた水槽の中には人の頭ほどのウニが入っていた。
『面倒な仕事を受けたな、トゥーハンド』
そしてその水槽から男性の声が流れてきた。
それに驚くことなくセンティッドは返す。
「相変わらず耳が早いわね『情報屋』」
『なに、情報は鮮度が命だ。情報の遅れが命に関わることもある』
「世界各国から指名手配くらってその姿になったあなたが言うと説得力があるわね」
センティッドの言葉に水槽の中に入っているウニ『情報屋』は笑い声をあげる。
このウニこそが世界的に有名なハッカーであり情報屋でもある存在であった。人間の姿をしていた時はその情報網から世界各国から指名手配され、たくさんの殺し屋に命を狙われた結果、自分の脳だけをウニの姿をした義体へいれ、自分を死んだことにしたのである。
センティッドも詳しいことは知らない。センティッドが仲介屋に紹介されてこの情報屋のところに来た時にはウニの姿であった。
『それで? 何の情報が欲しい? 隣国の国王の今日のパンツの柄か?』
「誰がそんな情報を欲しがるのよ」
情報屋の笑い声を聞きながら、店員兼囮である自動機械にお金を渡す。
自動機械を見送りながらセンティッドは口を開く。
「また囮変えた?」
『先代は麻薬中毒者が店に乗り込んできてショットガンを乱射して破壊されてな』
「水槽には傷一つないようだけど?」
『水産物仲卸も実際にやっている商売だからな。商品に傷つけられたら困る』
「商魂逞しいわね」
『褒められたと思っておこう』
センティッドの皮肉も情報屋はどこ吹く風だ。
『さてVRグループの会長だったな。名前は……まぁ、いらんか。奴は一代で衰退していたVRグループを世界的大企業にしたやりての経営マンだ」
センティッドは持っていた愛用のリボルバーを手入れしながら情報屋の話を聞く。
『表向きは貿易で財をなしたことになっているが、実際に奴を大きくしたのは武器売買と人型兵器やホムンクルス技術製造技術だ』
「? ホムンクルス技術なんて魔術協会が黙ってないでしょう」
センティッドの質問に情報屋は楽しそうに笑った。
『そこがあの男のやりてなところだ。魔術協会も一枚岩じゃない。いわゆる少数派な連中に資金援助を条件にホムンクルス製造技術を手に入れた。そして奴はホムンクルス製造技術と人造兵器を合わせた人型戦争兵器の量産を成功し、それを各国に売りつけて莫大な富を築いた』
「それは恨みを買いそうなことだこと」
『無論、奴は多くの恨みを買った。そこで奴は自分を守るために大量の私兵を雇った。その中には元国の特殊部隊所属だった人間も23人はいる』
情報屋の言葉にセンティッドは口笛を吹く。
「一個人が持つ私兵の強さじゃないわね」
『その通り。これまで会長を危険視した多くの連中が刺客や殺し屋を会長に送り込んだが全て失敗に終わった』
「何故?」
センティッドの言葉に情報屋は答えない。その反応がわかっていたのはセンティッドは近くにきた機械人形に追加のお金を払う。すると情報屋は再び説明を始めた。
『奴の身辺には言った通り常に私兵が守っている。車は特別仕様で対戦車ライフルでも撃ち抜けない特別使用。近寄ろうにも四方は護衛の車が張り付いている。そこで降りたところを狙うという手段だが、その時も身辺には私兵が張り付いていてそれも不可能。狙撃という手段もあるが、会長はそれも警戒して狙撃されそうなところには周囲に私兵を立たせているかれそれも不可能』
「……面倒な相手ね」
『だから最初に言っただろう。面倒な仕事を受けたな、と』
情報屋の言葉を聞きながらセンティッドはもう一丁のリボルバーを取り出す。
「私兵の数が少なくなる時は?」
『ほぼない。しかし、その時もさきほどいった元特殊部隊所属の23人が守っている。トゥーハンド、それを相手に単独で仕掛けるか?』
「私は自殺願望ないの」
『だろうな。だが、その会長が唯一単独になる時がある』
情報屋の言葉にセンティッドの眼が細まる。
「どこ?」
センティッドの言葉に情報屋は答えない。センティッドは再び近づいてきた機械人形に金を渡す。
『トゥーハンドのその金払いがいいところは俺は美徳だと思ってるよ』
「情報は命に直結するわ」
『同感だ。その言葉を情報を軽視するバカ供に言ってやりたいくらいだな』
「で? 肝心の情報は?」
『研究所だ』
「研究所?」
情報屋の言葉にセンティッドは尋ね返す。すると情報屋は説明を続けた。
『この街からアウトバーンを使って北に向かった避暑地で有名な山岳地帯。そこに奴は研究所を作って週に一回そこに通っている。そこの敷地には私兵達も入らせず、自分の足で研究所に入っていくのを確認されている』
「狙うならそこってことかしら?」
『だろうな。だが忠告しておくと、その研究所の敷地内には護衛のための軍事用多脚戦車が大量に配備されていて、侵入者は問答無用で殺されている』
「そんなところであの男は何を研究しているの?」
『その質問は別料金になるが聞くかね?』
「そ、ならいらない」
そう言いながらセンティッドは椅子から立ち上がる。
『ふむ、もういくのか。どうせだったら何か買っていかないか? いいサンマが入荷したんだが』
「どうせ遺伝子培養された奴でしょ」
『それがなんと天然ものだ』
情報屋の言葉にセンティッドは思わずぎょっとする。基本的にこの街で売られている農作物や水産物は遺伝子培養で開発された安物だ。水質汚染が進んだ現在、天然ものは滅多に手に入らず、その天然の水産物を食べることなど金持ちの道楽でしかない。
「そんなのどっから手入れたのよ……」
『なに、過去の遺産みたいなものだ。それでどうする?』
「私が食べ物に拘りを持っているように見える?」
『残念ながら見えんな。しかし、毎日三食レーションで飽きないのか』
「食事なんて栄養補給ができればそれで充分よ」
『ふむ、まぁそちらのほうがトゥーハンドらしいか』
そしてセンティッドは店の入り口で情報屋のほうを振り向く。
「それじゃあね、情報屋。あなたの情報は貴重だからできれば死なないで」
『無論だとも。トゥーハンドもせいぜい返り討ちにならないようにな』
情報屋の言葉にセンティッドは中指をたてて店からでていくのであった。
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