Scented
惟宗正史
センティッドという女
血と硝煙がこもる部屋の中、センティッドは呻いていた男の頭を撃ち抜くとリボルバーに弾を込めなおして、まだ息のある男をみる。
男は足から血を流し、壁によりかかり床に座りながらセンティッドを恐れたように見上げる。
「た、頼む……命だけは助けてくれ……」
「面白い冗談ね」
そう言いながらセンティッドは男の右肩を撃ち抜く。男は悲鳴をあげるとセンティッドを睨みつける。
「トゥーハンド……!」
「私に依頼されるなんて相当よ? あなたただのマフィア崩れでしょうに。何をやったのよ」
センティッドは男の頭を掴んでそう問いかける。
「言ったら助けてもらえるのか?」
「まさか。死ぬのは確定。私の好奇心よ。言う気はある?」
その言葉に男は笑った。
「くたばれ、売女」
その言葉にセンティッドは男の頭を撃ち抜く。壁に脳漿がぶちまけられるがそれを見ることもせずにセンティッドは部屋からでていく。
外に向かう廊下の中にもセンティッドに撃ち殺された男達が転がっている。だが、センティッドはその中を気にするような素振りもみせずにでていく。
そしてビルからでるとしばらく歩いて自分の愛車であるディンブラーに乗り込んで走り去るのであった。
「あっつ……」
センティッドはそう言いながらベッドから起き上がる。恰好は下着姿であるがセンティッドは寝室から出て事務所へと入る。そして冷蔵庫から水を取り出して口をあけて一気に飲む。
「冷房は……ああ、そうだ。バカが壊していったんだった」
センティッドは冷房のリモコンを操作するが、反応がなかったことに壊れていたことを思い出す。
センティッドは舌打ちをしてさらに水を飲む。
その時、事務机にある電話がなった。
センティッドは面倒そうに電話をとる。
「もしもし」
『あら、起きてるのねトゥーハンド』
「暑くて寝ていられないのよ。要件はなに、『仲介屋』」
電話の相手はセンティッドに仕事を持ってくる仲介屋だ。
電話は機会音声で性別の判別はできない。口調は女性であるが、見た目や口調が女で中身が男性なんて輩はこの街にくさるほどいる。
センティッドの言葉に仲介屋は楽しそうに笑い声をあげる。
『無敵の殺し屋トゥーハンドも暑さには勝てないのね』
「くだらない世間話がしたいなら別の奴にかけてくれる?」
『あら、世間話は心の清涼剤よ?』
センティッドは仲介屋の戯言を聞きながら事務所の壁をみると、大きな蜘蛛がいた。
センティッドは机に置いてあったナイフを投げるとその蜘蛛を殺してしまう。その時にナイフが壁に刺さる大きな音がでた。
『なんの音?』
「虫がでたから潰しただけよ」
『なに、また殺し屋集団に襲撃でも受けた?』
「虫だって言ってるでしょ」
『あら、電話中に殺し屋に襲われて返り討ちにした時も「虫がでたから潰した」って言っていたけど』
「古いことを覚えているわね」
『一か月前のことを忘れろというには短すぎるわね』
そう言ってから仲介屋は楽しそうに笑う。センティッドが事務所の壁をみるとその襲撃の時にできた銃撃痕が残っている。
「壁の修復が必要ね」
『あら奇遇ね。ちょうど私はお金になる話を持ってきたんだけど』
「壁の修理費にも困るようにみえる?」
『全然。でもどうする?』
仲介屋の言葉にセンティッドは少し考える。
正直なところ昨日のマフィア殺しで懐は温まっているので無理して仕事を受ける必要はない。それに最近は警察も五月蝿い。他の同業者もしばらくは大人しくしているだろう。
「内容を聞きましょうか」
だが、センティッドは仕事を受けることにした。理由は特にない。しいてあげるならクソ暑い事務所にいるよりは仕事をしていたほうがいいと思ったからだ。
そしてセンティッドの端末に仲介屋から標的の情報がくる。そして仲介屋の説明が始まる。
『今回のターゲットはヴァルプル・リアグループ……VRグループって言ったほうがわかるかしら? それの会長』
「ニュースとかでよくみる顔ね」
この街に本社をおくヴァルプル・リアグループは世界的にも有名な大企業だ。ヴァルプル・リアグループの会長は一代でヴァルプル・リアグループを世界でも有数の大企業にすると、社長業は降りても会長となって権力を未だに握っていた。
そしてこの会長には黒い噂も多い。
「悪人面よね」
『まったくもって同感。政治家よりも悪い顔ってなかなかいないわよ』
仲介屋の言葉にセンティッドは思わず笑ってしまう。政治家達もまたセンティッドのお得意様だ。政治家から殺しの依頼を受けることもあるし、逆に政治家を殺してくれという依頼も受ける。
『良かったわね、トゥーハンド。こいつ殺したら感謝する人も多いんじゃない?』
「別に感謝が欲しくて殺してるわけじゃないわ」
センティッドの同業者の中には義賊を気取って悪人しか殺さないという連中も稀にいるが、センティッドは金さえもらえれば誰でも殺す主義だ。
だからこそセンティッドはトゥーハンドという異名で裏業界に名前が知れ渡っている。
『トゥーハンドだったら自分で調べるから問題ないかもしれないけど、一応忠告しとくわ。こいつかなりの数の武装私兵を持ってるわ』
「人数は?」
『一個中隊』
仲介屋の言葉にセンティッドは口笛を吹く。一個中隊規模であれば百人規模の私兵になる。しかも全員が武装している。
「色々なところから恨みを買っているようね」
『金と権力。両方を兼ね備えていたら恨みのほうから寄ってくるんでしょうね』
「仕事の期限は?」
『一か月以内』
「急な話ね」
『一か月後にはVRグループの総会があるわ。それまでに消して欲しいみたいね。できる?』
「なんとかするわ」
『頼もしいこと。それじゃあ頑張ってね、トゥーハンド』
仲介屋は最後にそういうと電話を切る。センティッドも通話を終えると寝室に戻る。
「あっつ……」
センティッドの事務所はこの街のスラムの裏通りに構えている。それにも関わらず日当たり良好なのがこの事務所の利点だ。
「日当たりがよすぎるのも考えものね」
センティッドはそう言いながらクローゼットを開く。中には仕事の時に着るコートなどが入っているが、センティッドは手慣れた様子で愛用のリボルバーが入っているホルスターをつけると、そのうえにライダースーツを着こむ。
二丁のリボルバーに弾丸を込めると再びホルスターへとしまい込み、ライダースーツのファスナーをあげる。
そして事務所からでて階段をおり、一階のガレージに入る。
そこにはセンティッドの愛車であるディンブラーとバイク数台が置いてある。
センティッドはフルフェイスのヘルメットをかぶると、バイクのエンジンをかける。
「さて、まずは情報屋に情報をもらいにいきましょうか」
そう言うとセンティッドは照り返す太陽の下にバイクを走らせるのであった。
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