第47話

「もうすぐ卒業じゃあないか。」

 卒論に明け暮れる12月、大学で廊下を歩いていたら、サトナカ教授に呼び止められた。

「ああ、そうですね。」

「野暮だと思ってあまり絡まないようにしていたけど、君、シーファとはどうなっとるんだね。」

「どうもなってないですけど。」

 俺は目を逸らしながらナカイさんにアイコンタクトを送る。

「シーファはもう30を過ぎているんだぞ。責任を取る気は無いのか。」

「そもそもシーファさんは俺のことを好きじゃありませんから。」

「好きとかそういうのは後からついてくるだろう。」

「いやぁ、どうなんですかね…。」

「君がそんなだとパンジャーブの皇室は未来に繋がらないぞ。現皇帝の血を引く皇帝が未来永劫現れなくなってしまう。」

「ハルシャだって血は繋がってますよ。」

 ナカイさんが俺とサトナカの間を割るように入り、次のご予定がありますので、と言いながら俺の背を押して歩いてくれる。

 サトナカは何か言いたげだったが踵を返した。


 俺が養子になってから5年が経った。

 俺は21。ハルシャは28。シーファは31になる。

 公務には慣れたが、シーファはもハルシャも俺も、何も進展はない。


「お見合いとか婚活はしてみてるんだけど、やっぱりあまりピンと来ないのよね。」

「ピンと来るって何だよ。僕にはそういうチャンスすらなかったんだぞ。」

「あら、婚約者の方たちとはうまくいっていないの?」

「うまくいってないわけじゃないけど、ラブやロマンスは微塵も産まれていない。」

「ハルシャが冷たく返してるんじゃないか。緊張するのか?」

「そ、そ、そういうわけではないが…。」

 俺は知っている。婚約者の方々も黙ってはいないということを。御三方はいよいよ実力行使に出るらしい、ということを俺は、俺の茶道の先輩であり、ヒビキさんと仲良しのミサキさんから聞いている。

 婚約者の方達は酷なことに、懐妊しないといつまでも「婚約者」のままなのだそうだ。初めに身籠った人が正室となるらしい。なんとも旧時代的な。それほどまでに皇室の存続は重要、ということだろう。

 南無三、ハルシャ。

 これもパンジャーブの未来のためだ。

 精一杯やってくれ。


 シーファは「幸せとは何か」を考えすぎてわけがわからないことになっている。

 俺たちの周りは未だに、俺とシーファが結婚するべきだ、という人たちが大勢いる。

 ことあるごとに言われるので、その通りにした方がこんなに外野の提言に苦しまずに済むし幸せなのではないか、とか、会う人たちは皆いい人なんだけど何か物足りない、とか、迷走の限りを尽くしている。

 何度かお付き合いをしてみた人はいるのだが、シーファを支えるよりシーファに支えてほしいと思っている人が多い、と言っていた。

「私は結婚しても公務を頑張りたいと思っているわけ。でもなんか、皆、私がリファみたいに皇室から出たくてたまらない子、だと思っているみたいなのよね。」

 どちらかというと時間があるタイプの人がいいのだろうと思う。先日、皇妃にそんな話はしておいたので、うまく手を回してくれると良いのだが。

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