第46話

 一番上の人の意見がわかって、少し落ち着いたところで、サトナカやウメダさんなど周囲の人間が考えていることは変わらない。

 しかし、俺がシーファを恋愛対象として見れてないのは事実!

 自分の気持ちに嘘をついてまで、無理にシーファと結婚しようと思う必要はない。

 ふーっと長く息を吐く。

 無理に恋愛対象として見なくていいとわかってすごくホッとした。


 ハルシャのイメージを良くしないといけないんじゃないか?

 そもそも、現皇帝とシーファに比べて、シュウトクもリファもハルシャもイメージが良くない。

 しかしイメージはコツコツと積み重ねられたものでできているので、そう簡単には良くならない。

 ハルシャにああせいこうせい言うことで、癇癪おぼっちゃんになってしまい、よりイメージが悪くなる可能性だってあるし。

 難しいなぁ…。

 もう、他人事ではいられないのがつらい。


 シーファのところへ行くと、シーファも皇帝から何か言われたようだった。

「ありがとうね、父に話をしてくれて。父から好きでもない人と結婚することはないって言われたわ。娘の幸せが第一だって。」

 シーファはホッとした顔をしていた。

「私の幸せか。あんまり考えたことなかったかも。」

「リファみたいなことは…。」

「もちろんわかってるわよ。父にも言われたよ。シーファが選ぶ人なら間違いはないと信じてるぞって。私、ちゃんと信頼されてるのよ。」

「いい関係だよな。」

 俺は誰と比べるでもなくそう言った。

「シーファはちゃんと皇帝を尊敬しててさ。皇帝もシーファを信じていて。」

「そうね。」

 シーファはぐーんと伸びた。

「幸せ、か。皇室のために尽力したい。そういう気持ちを応援してくれる素敵な人、現れるかなぁ。」

「シーファならきっと見つけられるよ。」

 俺は心からそう言った。


 ハルシャのことも気にはなったけど、特に進展もなさそうだったので、俺も自分のことを考えることにした。

 どんな人となら、幸せになれるだろう。

 実はまだ少しリンが忘れられない。

 恋人的な何かがあったわけでもないんだけど。

 リンと話している時が一番楽しかった気がしている。自分を貫く女が好きなのかな、俺。

 恋を忘れるなら新しい恋とか言うけど、そう簡単に付き合ってとか言えない立場になってしまった。


「そこはもっと肘を高く、膝は曲げて、こちらの腕をまっすぐに。」

 パンジャーブの文化、世界の国々、どちらにも精通しようと、俺は趣味の世界を広げるよう努力した。

 今やっているのはパンジャーブ舞踊だ。

「体幹が素晴らしいです。飲み込みが早くて驚きます。」

 幸い、合気道をやっていたことが功を奏している。

「合気道と共通することがけっこうあって驚いています。」

「身体をまっすぐにしたり、重心を変えないとか、そういうことかしら?そういう基本的なことは何にでも共通するのよね。何でも吸収しちゃうからどこへ行っても喜ばれるわよ。いろいろやってみたらいいわ。でも最終的にはパンジャーブ舞踊に戻ってきてね!」


 茶道もチャレンジした。正座がきついけど、お菓子がうまい。

「茶道は長いことやってみないと、わからないものなのよ。時間がある時だけでいいから、是非、続けてみて。」

 そう教えてくれたのは、ヒビキさんだ。ハルシャの婚約者の一人、パンジャーブ文化に詳しいヒビキさんに、茶道の先生を紹介してもらったのだ。

「ハルシャさんにも勧めてみてもいいかしら。ショウタくんがいるなら来るかもしれないし。」

「どうですかね。ハルシャは一度やった上で嫌になってそうですよね。」

「あら、そうなのよ、実際。」

 よくわかったわねー、とヒビキさんは笑う。

「ハルシャさんもいろいろ悩んでいらっしゃるようだけど、私たちには話してくれないの。ショウタくんも気にかけてみてくれない?」

 余計なことを頼まれてしまった。


 もう一つはフェンシングである。

 海外の文化にも触れてみたいと思ったのだ。

 これは、合気道と共通する部分があまりないので、全く新しいものを始めた感じがして楽しい。

 小さい的に、細くてすぐにしなってしまうフルーレ剣で正確に突けるようにならなければならない。先は長いが面白そうだ。


 新しいことを始めるのは楽しい。

 実際にやってみないとわからないことばかりだし。

 ついでに出会いなんかもあるといいけど、今のところそんな予兆はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る