第45話
俺を養子にとった理由は、皇族の人数とか、ハルシャの保険とかそういった意味もあったけど、実は、シーファと結婚させるためなのか?
だとしたら、俺はシーファを受け入れるべきなのか?
しかし、サヤさんにもゴンダさんにもそんなようなことは一度も言われていないはず。
俺を養子にすると決めた人は、何をもって、俺を選んだのだろうか。
一番上の人の意見を聞いてみたい。
「私も誰からもショウタと結婚しなさい、なんて言われてないわよ。その方がショウタの後ろ盾がしっかりするから、あなたのためになる、とは言われたことがあるけど。」
「それは誰に?」
「私についてくれているお手伝いさんよ。子供の頃から親身に接してくれてるから、特に変な意味はないと思うけど。」
「俺はこの間、」
シーファに、ウメダさんやサトナカ教授の名前は伏せて、シーファと俺が結婚すして、男児が産まれれば、その子には皇位継承権ができる、ということを話した。
「たしかにそうね。」
シーファは興味深げに頷いた。
「それが何か関係あるの?」
俺は、ハルシャとシーファの対立構造ができてしまうことをなるべく簡単に話した。
「ハルシャと対立するつもりなんてないわ。皇室を一緒に盛り上げていくために協力しないといけないのに。」
シーファは国民感情をあまり理解していないのだろうか。
「ハルシャの子孫に皇帝になってほしい!という人たちと、シーファの子孫こそ皇帝になるべきだ、とか言う人が現れて、その人たちで対立構造ができるっていうことなんだけど。」
「皇帝が誰であれ国民の暮らしにはあまり影響はないのではないかしら。」
「そうんだけどさ、俺たちの税金で暮らしてるんだろ、とか言ってくる人もいるじゃん。」
シーファは黙った。
「それを言われちゃうと何も言えなくなるわよね。私たちだって好きで税金で暮らしているわけじゃないのだけれど。」
シーファは改めてよく考えたい、と言って、そな日は解散した。
そして俺は、皇帝に謁見のアポを取った。
こういうのは一番上の人に話を聞くに限るのである。
その時は思っていたより早くやってきた。
アポをお願いした次の週、夕食に呼んでいただくことができたのだ。
シーファと皇后もいたので、食事中は当たり障りのない話をした。
皇帝の公務について、座学で聞いていたので、気になっていたことを質問した。皇帝は一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「やっぱり、皇帝の公務が一番国民のためにっていう想いが強いというか、入りやすいものばかりのような気がします。俺がやらせてもらっている公務は視察とか、見ているだけのものが多いので。」
「役に立っていますよ。現場の方たちの声を聞いてみてください。感謝してくださっているでしょう。」
皇帝は微笑んだ。
「でも常に誇りと矜持を忘れないように。」
皇后とシーファが退席すると、俺は本題に入った。
「俺を養子に取った理由について、とある人から俺が思っていたものとは違った理由だ、という人がいて、皇帝陛下はどう思われているのかな、と思いまして。」
俺はシーファと結婚させる目的だったのか?ということをオブラートに包んで話した。
「確かにそういう意見もありますよね。ですが違います。赤子ではなく君を養子にした理由から説明しましょう。それは、赤子を養子にした場合、ハルシャと年が離れすぎるためです。リファ、サイファが皇籍を抜け、シーファやハルシャの公務負担は大変なことになっています。公務負担を減らせる即戦力を望んでいた。」
皇帝は言葉を切った。
「公務負担を減らしてくれるなら誰でもいいかというとそういうわけでもない。血を継いでいて、しっかりした意志を持ち、人生を懸けてやり遂げてくれる人材でなければならなかったのです。」
「なるほど。」
「そのためな必要なのは、自分から、やりますという意志だ、と言ったのです。こちらが頼んでいるわけではなく、本人が望んで皇籍に入ることが重要だった。現に君はよくやってくれています。ショウタくん。」
皇帝の言葉はいつも心に響く。俺は少し泣きそうになった。
「シーファと結婚するか否かは、本人たちの意志です。」
皇帝は言った。
「責任や立場や圧力があるからシーファと結婚したいと言うなら私は認めない。愛し愛される関係になったならば、考えるけれどね。」
皇帝は言い切った。
「いくら責任感があったとしても、政略で結婚相手を選んで欲しくはない。シーファにもショウタくんにも幸せになってほしい。互いに尊重し合って幸せになれる、相応しい相手を見つけてくれることを祈っているよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺は皇帝の部屋を出て、長く息を吐いた。
肩の荷は少し降りたが、「相応しい相手」という言葉の意味を考えさせられる。
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