第42話
シーファは本当に「誰でもいい」と思っていたのか。
俺は見識を改める。
大変かも、と。
こういう話は大学とかでサークルの友達と話す話なのだろうと思う。
だが、ことが大きすぎてなかなか人に話せない。皇女がアイドル好きでそれ以外の男はみんな同じに見えるみたいなことを言われたら普通の人は普通にびっくりする。
俺もびっくりしている。
「サイファは知ってるから今度一緒に相談しに行く?」
サイファ。
リファの妹でリファがカワムラとアマルカに発った直後に、結婚を決めて大きなトラブルもなくトントンと儀式を終え皇籍を抜けた。
結婚相手のワタナベさんはサイファの3つ上で国内最大手の商社勤務。
結婚して5年ほど経つが子どもはいない。
シーファは、来月家に遊びに行くと言う。俺も会ったことがないので緊張しながらもついて行くことにした。
「シーファ!久しぶり!ショウタさんこんにちは!弟…なんだよね。なんだか不思議だね。」
サイファは元皇族とは思えない、全身モノトーンでまとまった落ち着いた女性だった。笑うと目がキュッと垂れてキョウカにそっくりになる。
「よろしくお願いします。えと、お姉さん?」
「呼びやすい感じでいいよー。」
サイファの家は見晴らしの良いタワーマンションだった。ワンフロアに二部屋しかないため、かなり広そうだ。シーファと俺のSPがついてきてかなりの大所帯だが、ほとんどは同階のロビーで待機することになった。
「夫は仕事なので、気にせずくつろいじゃっていいからね。」
室内は茶色と白の家具でまとまっている。一つ一つの家具がオシャレだ。特に掛け時計には猫がたくさんついていてかわいい。
「サイファ姉さん元気?」
「元気元気。毎日楽しくて仕方ないって感じ。」
「いいなぁー。」
サイファは皇室を離れてから、まだ仕事はしたいと思えないらしく、今は習い事をたくさんしていると言った。
「ダンス、乗馬、お料理、お茶、あとお香。それぞれ月2回くらい行ってる。」
「楽しそーう!」
「公務がないからね。時間いっぱいあって最高。」
サイファはシーファのように特殊職として公務を手伝う気はないのだろうか。
「ないかなー。もう面倒なのはちょっと懲り懲りかな…。逆に、シーファよくやるな、と思う。ショウタくんも。」
サイファは俺を少し可哀想な目で見た。
「わざわざ皇室に入りたがる意味がわからないよ、私は。」
やはりリファの妹、ハルシャの姉、といったところか。
「シーファも誰かと結婚してとっとと抜けちゃえばいいのに。」
「そういうわけにもいかないよ。私がいなくなったら皇室ヤバいよ。」
「たしかに、ハルシャとショウタくんが公務やりすぎて過労死しちゃうかもね。」
「本当はサイファ姉さんにも戻ってきてほしいくらいなんだから。」
「嫌よう。私は自分の幸せを追い求めたいの。人生は一回しかないんだよ?窮屈な世界しか知らずに死ぬのはごめんよ。」
サイファはテーブルの上のお菓子をつまむ。
「それよりそろそろ適齢期でしょ、シーファ。いろんなとこから圧力かけられてるんじゃない?」
俺もママレードの入ったクッキーを一ついただく。うまい。
「そうなの。どうしよう。サイファ姉さん。」
「あんたたちがくっつくのが一番良いんじゃないの。」
ブフォと俺は紅茶を吹き出す。サイファにまで言われるとは思わなかった。
「シーファ、カンタム好きを認めてくれる人なら誰でも良いんでしょ?ショウタくんなら認めてくれそうだし、立場的にもベスト。良さそうじゃん。」
「それが振られちゃってて。」
ゴホッゴホッ。
「そんな、いきなり結婚とか言われたらそうなりますよ。」
「何よ。皇室の結婚話なんていつでもいきなりよ。政略結婚て言葉知らないの?」
「サイファさんはどうやってワタナベさんと知り合ったんですか?」
俺は全力で話を変えた。
「まずはハイステータスな人をたくさん知ってる女友達を作るの。そういう子たちはハイステータス男子と合コンしてるから、そこに混ぜてもらうの。」
ハイステータスじゃないと国民から何か言われちゃうから、とサイファは言った。借金があったり、定職に就いてなかったりすると、その人が叩かれちゃうでしょ、あと家族も大事よね、とサイファはにべもなく言う。
「できれば私の夫みたいに仕事が忙しくてほとんど帰ってこない人がいいよ。」
「それは、寂しくないんですか?」
「全然。アイドルのコンサートも行けるし、推し活もはかどるよ。」
それを聞いたシーファの目が輝く。
「浮気だけはね。できないけど。浮気さえしなければあとは何してもいいって感じかな。」
幸せなのか?この人は。
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