第43話
「幸せよ。」
サイファははっきりと言った。
「私は今、自分のために自分の人生を歩んでいるの。」
そして、意味深なことを言った。
「あなたはまだわからないのかもしれないけど、きっと、そのうち、わかるわよ。私はあなたやハルシャが可哀想で仕方ない。話くらいなら聞いてあげるから、いつでも来ていいわよ。」
この言葉の意味を、俺はまだよくわかっていなかった。
大学のサークルには入らなかったのだが、サトナカ教授には気に入られてしまったようで、何かにつけて呼び出されることがある。
ある日、教授の部屋に行くと、一度だけ見たことがある人がいた。
4代前の皇帝の親戚筋に当たるウメズさん、だったかな?
聞きたくても、SPは例によって部屋の外にいるので聞けない。
「やあ。ショウタくん、久しぶりだね。」
ウメダさんだった。彼はそう名乗った。
「今日は君の意思を確認しておこうと思って。」
ウメダさんもシーファのことを聞いてきた。
「単刀直入に聞くけど、シーファと結婚する気ある?」
「あんまりないです。俺はまだ結婚とか全然考えていなくて。まだ早いと思っています。」
「一般人ならそうかもしれないね。ショウタくんはまだ18歳だ。もう19になったのかな?」
「まだ18です。」
「でも18歳って言ったらもう大人だ。選挙権だってあるし、結婚もできるんだよ。」
「でも18歳で結婚する人ってあんまりいないと思います。」
ウメダさんは少し黙った。
「君はなかなか頭が良さそうだ。」
それが、ウメダさんにとって良いことなのか、悪いことなのか、俺にはわからなかった。
「君がシーファと結婚する、ということがどういうことかわかるかね?」
「俺の立場は良くなると思います。シーファは皇帝の娘で国民人気も高いですから、どこの誰ともわからない俺の立場がより強固なものになる。」
「そうだね。でもそれだけじゃないんだ。」
サトナカが図を描いて説明し始めた。
「ショウタくんとシーファが結婚されたとしよう。今、シーファは結婚すると皇籍を抜けることになるよね。そうすると、シーファは特別職として公務は続けられるけど、シーファの夫や子供は一般人なんだよ。」
家系図のように、シーファの横に二重線を描き、その隣に丸を描く。そして二重線から垂直に線が引かれ、丸を描く。
「でもな、君と、シーファが結婚した場合。」
俺は星マークだった。先程までの図が消されて、シーファと星が二重線で結ばれる。
シーファの反対の隣に、ハルシャと書かれてトーナメント表のように線画描かれる。
「ハルシャは未来の皇帝。君は未来の皇帝の弟。シーファはその嫁。」
俺とシーファの間に子どもの線が描かれる。
「もしね、ハルシャに男児が産まれなければ。君とシーファの子供が皇帝になっていくわけだ。」
つまり。
「現皇帝の血は今のままではここで終わり、シュウトクの宮家が皇帝を継いでいく。でも、君とシーファの間にできた子供は、正統な宮家の一員でもあり、現皇帝の血を継ぐものでもあるわけ。」
冷や汗が垂れる。
俺が思っていた以上にシーファと俺の運命は注視されていたと気付く。
「だから、僕はアサヒナを推してたんだよ。シーファと歳も近いし。でもなんか、却下されてしまった。ハルシャよりも年上とかそういう意味のわからない理由で。」
アサヒナさんを推薦していたのはこの人だったのかもしれない、と俺はうっすらと思った。
「まぁ僕はどちらでもいい。君がシーファと結婚しようがしまいが。君の好きにしたらいい。」
そう言うウメダさんの言葉にサトナカが慌てた。
「シーファを選んでくれよ…頼むよ…。シュウトクの家はもう信用できない。リファの弟に皇帝にならせるなんて。」
「お二人ともハルシャには子供ができないこと前提で話を進めていませんか?ハルシャが男児を産めばそんな話は。」
俺はそこまで話してハッとする。
アサヒナさんを送り込む力があるなら、ハルシャの婚約者を送り込む力があると考えて然るべき、である。
何か手を打っているのか?さすがに、そんなことは…。
「そりゃあそうだ。ハルシャに男児が産まれればそれが一番いいに決まっている。サトナカくん、今の発言は良くない。」
ウメダさんはサトナカを嗜めた。
「とにかくだね。シーファを選ぶのか、他を選ぶのかで君の価値は大きく変わってくる。よく考えるのだね。」
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