第38話

 ショウタくんは市井育ちだからなのか、我々にはない価値観をもっている。

 先日、キョウカとゴンダと共に少し話をさせてもらったが、なかなか、反省させられた。

「え?婚約者とハルシャがうまくいかない可能性は何も考えてなかったんですか?」

 うまくいかない可能性よりはうまくいく可能性を考えたかった。親として、皇太子として、次期皇帝の父として。

 浅慮じゃないですか?と彼は言外に語っていた。


「彼のお披露目の際に発表しましたから、根にもたれているのやもしれませんね。」

 ゴンダはそう言ったが、彼はそんな浅い人間ではないと、私は思う。

「公式に発表するのが早すぎた、と言いたかったのかもしれません。」

 後継者のために、近代皇室においては異例の一夫多妻。授かり婚ならぬ授かってから婚を狙ってのことなので、仕方がなかった。の、だろうか。

 苦肉の策だが、最良。そう思って実行に移したが、ハルシャは今や婚約者の誰とも交流していない。

 夜這いをかけてもらうことも視野には入れているが、これ以上ハルシャに嫌われて仕舞えば、本当に親子の縁を切られるかもしれない。

 リファのことがあってから、ハルシャのことが少し恐ろしい。

 彼に「皇帝にはならない」などと言われてしまえば、皇室は終わりだ。

 歴史を終わらせた不届き者として、私やハルシャの名前は永遠に残るだろう。

 恐ろしい。


 初めから兄が皇帝になると思っていた。私なぞいてもいなくても変わらないと。

 だから、多少好きなことをやらせてもらってきた自覚はある。

 自由気ままに振る舞っても、次男だからと許されてきた。

 しかし、兄に男児が産まれず、ハルシャが産まれてから、私の立場は一変した。

 三人の子供達にはとても平等に接することはできなかった。

 ハルシャには幼い頃から様々な経験をさせたいと思っていた。

 だが、命の危険があることは絶対にさせられない。過保護にもなった。

 リファやサイファは、どう思って見ていたのだろう。

 幼い頃の私と同じように、リファやサイファは、いてもいなくても変わらない、と思わせてしまっていたのだろうか。


 リファの婚約者のことで私やハルシャの品位までも問われることになった。子供のことは親の責任。その通りだ。

 私は、いったいどこで、間違ったのだろう。


「もうちょっとハルシャに寄り添った方がいいんじゃないですか?」

 ショウタくんのような友達、もとい兄弟ができてよかった。

「ハルシャの気持ち考えたことあります?」

「もちろんだ。だからハルシャにはきちんと説明してきたつもりだ。」

「説明、説明とかじゃなくて。」

 ショウタくんは考えながら言った。

「なんていうか。ハルシャがこんな種馬みたいな状況になってるのは、ハルシャのせいじゃないじゃないですか。あ、種馬っていうのは本人が言ってたんですけど。やらなきゃいけないのはわかってるけど気持ちがついていけないときってあるじゃないですか。」

 ショウタくんはすこし間を置いた。

「俺なら親父に酒とか飲みながら本音話したいかもしんないですね。まだ酒飲んだことないっすけど。」

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