第36話

 話は深まっていき、公務の話になった。

「私は早く公務をしてみたくて堪らないんです。パンジャーブの伝統的なものの総裁になったりとか、展示会を見に行ったりするでしょう?もう楽しみで楽しみで。」

「そっか。ヒビキさんは茶道をされるんでしたよね。」

「そうなんです。お茶碗が展示してある展示会とか、お花とか、伝統的なものが大好きなんです。」

「私は早く海外に行ってみたいですね。」

 カエデさんも言う。

「私は海外の文化が大好きなんです。今までも50ヵ国くらいは行ってると思います。海外の要人の方と話せる機会があるかと思うと、トキメキが止まりません。」

 カエデさんの目はギラギラしている。

「どこの国が一番好きなんですか?」

「いやー!一番なんてとても決められないですけどもぉ。強いて言えばアフリカのあのなんとも言えない空気感というか…あ、でもアジアも大好きです。」

 推しについて語るオタクのような勢いだ。

「私は公務はそんなに自信ないですー。」

 サクラさんはぽわんとして言った。

「でも、皇室のお食事はとってもおいしくて最高ですね。私は食べることが大好きなので。自分で作らなくても一生おいしいものを食べて生きていけるなんて…幸せです。殿下、」

「「「本当にありがとうございます!」」」

 さすが、初めからどんなレールの上に乗るか分かり切ってやってくる人間は違うな、と俺は思った。

「そ、そうなんだ。確かに、今あなた達が仰ったことは皇室では普通のことかもしれないわ。それを特別に思ってやってきてくれているのね。嬉しい!」

 シーファは本当に嬉しそうだ。

「ハルシャもリファも皇室の窮屈なところばかり考えていたのかもしれないじゃない?皆さんのように楽しんでいけたらいいわよね。」

「僕はパンジャーブの伝統にも海外の文化にも興味はない。」

 ハルシャが突然言った。

 空気が凍る。

「生まれた時から食べているから皇室の食事が特別おいしいとも思わないし、知らない人間と食べる食事はあまり楽しめないことが多い。お前らなんかに僕の気持ちがわかってたまるかよ!」

 ハルシャは叫ぶとガタッと立ち上がった。

「行くぞ!ショウタ!」

 え?俺も?

 聞き返そうにもハルシャはもう大股でズンズンと部屋を出て行くところだった。

「す、すみません。どうぞ、ごゆっくり。」

 俺はそれだけ言うと後を追った。


「ああいうタイプの人たち、今までに会ったことあった?」

 ハルシャが俺の部屋の俺のソファに座って動かなくなってしまったので、俺は聞いてみた。

「ない。」

 端的な答えだ。

「僕と結婚したいわけじゃなくて、自分の興味のために皇室に入りたい女達だったってわけだ。よくわかったよ。僕はあの人たちが皇室に入るために必要な存在なんだ。」

 ハルシャは純粋な男なのだ。この姉弟は本当にロマンスに憧れるなぁ、と俺は思った。

「別に僕じゃなくてもいい。ショウタ、君があの3人と結婚してやってよ。僕は嫌だ。」

 じゃあ誰ならいいんだよ、と喉元まで出かけた言葉を慌てて飲み込む。

 俺は3人とも悪くない相手だと思ったけどな。そもそも皇室に進んで入りたい人なんてそんなにいないと思うからな。じゃあ誰を選ぶ?とか聞かれちゃったら困るので言わないが。

「俺もこの前彼女に振られたわけじゃん、皇室にはは入れないからって言われて。でもああいう人の中から好きになれる人を探したら、俺と彼女みたいな悲しい結論には絶対ならないのかなぁって思った。」

 俺はただ思ったことを言うだけにしようと思った。

「ゲイの人とかさ、障がいがある人とかもさ、最初から理解してくれる人とじゃないと結ばれないじゃん。俺たちもそれに近いのかもしれないな。なんていうのかな、うまく言えないけど。」

 俺は言葉を切った。

「ゲイの人は、好きになった人がノンケだったら、その人をゲイにするところから努力しなきゃいけなくて、ゲイとは付き合えないって振られる可能性があるだろ。でも最初からゲイの人と付き合えば、そういう可能性は少し減る。もちろん、両想いになるかどうかはわからないけどね。

 障がいがある人もさ、例えば耳が聞こえない人とかさ、手話でしか話せないわけじゃん。手話を使えない人を好きになったとする。もちろんうまくいくことまあるだろうけど、意思疎通がうまくできなくて別れることになる可能性はあるよな。でも、耳が聞こえない同士とか、手話が使える人同士だとそういうトラブルは、そりゃ、ないよな。意思疎通の問題はクリア、と。」

 何が言いたかったかわからなくなってきた。

「まぁさ、俺たちも難儀だよなと思って。普通の人よりは難しいんだろうな。でもさ、絶対いるんだよ。普通じゃない部分を理解した上で、普通の人として向き合ってくれる人が。俺たちの場合は皇族って分かった上で、向き合ってくれる人っていうか。今日、俺はそういう人がいるんだってわかって嬉しかったけどな。」

 伝わっただろうか。俺の言いたいこと。

 もちろん、自分が好きになれるか、相手も自分を好きになってくれるか。両想いになるかどうかはまた別の話だけど、なろうと思ってみないと絶対になれない。それだけはわかる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る