第35話

 テレビの話題は皇室一色になった。リファの話、俺の話、ハルシャの婚約者3人、登場人物が一気に増えて、報道もてんてこまいのようだ。

 だが、多くの人にとってはどうでもいいニュースでもあるので、話題にしているのは芸能人がコメントをしているようなワイドショーばかりだ。

 そんなワイドショーに、コメンテーターとして引っ張りだこになっているのがアサヒナさんである。

 元養子候補として俺と同じ教育を受けていたし、ぴったりきたのだろう。

「リチャードさんが来た時は本当に驚きましたし、誰?と思いましたが、幸せならオッケーですよね。リファさまのお幸せを願っております。」

「ショウタくんはしっかりした人ですから、安心していいと思います。」

「婚約者の方の中に、ハルシャさまの気に入られる方がいるといいですね。」

「シーファさまもそろそろご結婚の頃かと思いますが、どんな方を選ばれるのでしょうね。」

 引っ掻き回されても困るので放っておきます、とサヤさんが言っていた。アサヒナさんはテレビの中が一番イキイキしている。かかっていた圧がなくなり、肩の荷が下ろせたのではないだろうか。


 ジングウジくんも受験勉強に専念するために実家に帰った。

 俺も目下の目標は大学受験である。

 志望校は理系の学部が多いTK大に決めた。理系は課題やゼミが大変だと聞くが、公務との両立はできるのだろうか。わからないけれど、やれるだけのことはやりたい。


「ショウタ…。」

 だが、宮殿内に移った俺の部屋には三日に一回くらいやってくる人間がいる。

「無理だ。」

 ハルシャである。

 ハルシャは公務の合間に婚約者の誰か、もしくは全員と一緒にいて、交流を深めている。

「そんなに情熱的なの?」

「いや、そんな人はいなくて、みんな普通に話しかけてくるくらいなんだけどさ。下心があるんじゃないかと思うと疑心暗鬼になって固まってしまう。」

「下心って?」

「なんかほら、子供がほしいとか…。」

「うーん…。」

 年が明けて三週間ほどが経っているが、婚約者さんたちは、なろう小説によくでてくるような、女を馬鹿にしてくる気持ち悪い女性ではない。皇室に入るという罰ゲームに近しい(とハルシャやリファ、サイファは言うであろう)状況に悲観的なわけでもない。

「俺も一緒に話してみてもいいかな。」

 興味があったので軽い気持ちでハルシャに頼んでみる。

「いいのか?」

「いろいろ聞いてみたいな。シーファも来るかな。」


 そんなわけで、俺、シーファ、ハルシャ、そしてサクラさん、カエデさん、ヒビキさんの6人でアフタヌーンティーを嗜むことになった。


 俺とシーファはやや遅れて行き、先に3人の婚約者と話をして場を温めているはずのハルシャは、カチコチの氷のようになっていた。膝の上に拳をぎゅっと握っていて、拳を見つめている。微動だにしない。

「遅れてごめんなさいね。皆さんとお話するの、とっても楽しみにしていました。」

「よろしくお願いします。」

 仕方なくシーファと俺が場を温める。

「皆さんはもう仲良くなられていそうですね。」

 サクラ、カエデ、ヒビキの間にはそんなに壁がなさそうに見えたのだ。

「婚約者教育の頃から一緒に過ごしてきましたし、お互いのことはだいたいわかっていると思いますわ。」

 一番年上のヒビキさんが言った。

「3人いるっていうことは、なんていうか、受け入れていらっしゃるの?」

 シーファがザクザクと話を進める。

「そうですね。受け入れています。次世代を担う男児を産むことが重要視されていますから、寧ろ私一人に任されなくて良かった、とすら思ってしまいますね。」

 ほんわかした顔でサクラさんが言った。

「だって、すごくプレッシャーじゃないですか?絶対男の子を!なんて。ね、殿下。」

 サクラさんはおっとりした感じでハルシャに話を振った。

「た、た、た、そ、そうだな。」

 確かにそうだな、と言おうとしたのだろうか。

「新しい生活には慣れましたか?」

 カエデさんが俺に聞いてくる。

「はい。式典が終わったら一気に勉強に集中させてくれるようになって、少しびっくりしているくらいです。あんなに帝王学とかいろんな授業があったのに。」

「一通り終えられたからでは?ショウタさまの努力の結果ですね。」

 カエデさんはスッと微笑んだ。

「受験勉強か。懐かしい。」

 ヒビキさんがお茶を飲みながら言った。

「人生で一番勉強する時期よね。無理しないでがんばってね。」

 サクラさんは誰もが聞いたことのある女子大出身で、カエデさんも有名な大学だった。ヒビキさんはなんとジングウジくんが目指すT大出身であった。大学でなんでも判断できるわけではないが、来年大学受験を控える俺には凄すぎる人たちである。

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