第33話

『ワーオ!なんて愛らしいんだ!名前は?』

『リーゼロッテ』

『かわいいね!リファの子供かな?僕を君のお父さんにしてくれない?』

 リーゼロッテは意味が分かっているのか分かっていないのか、小さく頷く。

『リーゼはアマルカに行きたいの。パンジャーブはあまりおもしろくないわ。』

 アマルカ語が流暢すぎて笑ってしまいそうになる。彼女はパンジャーブ語よりもアマルカ語の方が得意なのか?

「リーゼロッテさまはどちらも上手に話されますよ。」

 サヤさんが小さい声で言った。


「どうして?あの人は妹みたいなものだって言ってたじゃない。」

 リファの声がこだまする。

「私はずっと待っていたのに。」

 リファの声には悲しみよりも怒りが多く含まれているように感じられた。

「わかった。正直そんな気はしてたの。本当に好きなら、こんな扱いしないはずってどこかでは気付いていたもの。2年も放っておいて。」

 気まずい沈黙が流れる。だいたいどんな話かは想像がつく。

「じゃあもう私には一切関わらないでね。離婚の手続きが終わったらもう本当に一生会わないようにします。でも裁判にはなると思うわ。お金のことはしっかりしたいから。」

 フーフーと肩で息をするリファ。

 キョウカがカワムラさんは?なんて?とおそるおそる尋ねる。

「リチャード!!」

 キョウカの問いには答えず、リファはリチャードに向き直る。

「さっきの言葉、本当よね?私のことが好きで、私を幸せにしたいってそう思ってくれてるのよね?」

『もちろん。この麗しいお姫様ももちろん一緒に。』

 リチャードは抱き上げていたリーゼロッテをそっと下ろすと、リファの方へ数歩進んだ。

「リファ、私のすべてをかけて、あなたを幸せにします。私とケッコンしてください。」

 ハリーウィンストンの大輪の指輪が光っていた。


 皇室の一同からすると願ってもない話だ。リファの扱いにはみんな困っていたのだから。

 リチャードはシュウトク、キョウカ、ハルシャ、皇帝と皇妃、リーゼロッテ、リファの家族だけと別室で静かに話し合うことになった。

 俺はまだ正式な養子ではなく、年明けからということなので、ドキドキしながら退室する。プロポーズ 現場なんて初めて見た。

 後でハルシャから聞いた話だと、リチャードとリファはカワムラの紹介で会ったことがあるらしい。カワムラは愛の集いと称して複数人とその、することがあったらしく、そこに来ていた妹みたいな女とくっつくことになるらしい。その妹みたいな女はリファがアマルカへ行く前からカワムラと仲良くしており、怪しいとは思っていたが、リファは妹みたいという言葉を信じていたらしい。

 愛の集いでできた子供は俺との子供だよ、と言われていたらしいが、そもそも愛の集いなんて私と別れずにあの女とやりたかっただけだと思う、と非常に冷たい声で言っていたらしい。

 仕事や立場を確立するまで、私と結婚している、というステータスが欲しかったのだと思う、どうしてあんなのと結婚したのかしら、とのこと。

 リチャードは登場時こそ突飛だったが、話すと信頼に足る人物だということで、一週間後に彼の父親と母親もパンジャーブに呼んで、食事会が開かれることになった。

 急な話である。そこには俺も参加して良いらしく、初めて皇族らしい晩餐会に参加することになる。


 年の瀬も迫ったその晩餐会は宮殿に住む皇族は皆参加した。会ったことのない人たちもいて、リチャードと俺の挨拶回りのようだった。


 リチャードをパンジャーブに寄越したのは、アマルカでリファの警備を担当していたハセさんという40手前くらいの宮廷官で、彼と仲良くなれたことが良かったと言える。

 リファとカワムラの仲は始めから冷え切っていたが、別れてくれないかと思っていたので放置していたらしい。

「いやーまさか愛の集いなんて開いてるとは思わなかったけどさ。」

 ハセさんはハハハと笑った。

「リーゼさまの髪色見た時やべぇって思ったね。あ、俺、殺されるかもって。」

 笑えませんけど。俺もハハハ、と言っておく。

「まぁでも怪しいやつ片っ端から洗ってたら、リファさまにほの字の方を見つけまして。これ、いいんじゃない?って思ったのよ、俺は。」

 ハセさんはリチャードをかなり焚き付けたみたいだった。

「アイツはいいやつだよ。きっとリファさまも幸せになれるよ。やっぱり警護対象は幸せそうにしててくれなくちゃね。」

 あと言語も覚えるだろ、そろそろ、と付け足していた。


 アマルカへ経つときはマスコミにも報道されたが、リファは素敵な笑顔で微笑んでいた。

 リーゼロッテのことは秘密だ。

 本当に慌ただしい年末になった。リファの報道を打ち消すように、俺のお披露目をバンバンやっていく所存である、とゴンダさんから宣言されている。

 俺は、年明けからどうなることやら、とドギマギしていた。

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