第32話

 アサヒナさんの問題は、誰もが予想しなかった終わりを迎えることになる。

『謎の外国人、元皇女を迎えに?!』

 そんな記事が出た。

 夕方のニュースでは、空港で記者に話す金髪の男性。カジュアルな服装で、アマルカ語で話している。パンジャーブ語のテロップで、「全てを整えるのに時間がかかってしまった。遅くなってすまない。迎えにきたよ、リファ。」という文字。

 アサヒナさんの後ろにいる人たちがリファの情報を云々する前に、謎の外国人がリファがパンジャーブにいることを突然暴露したのだ。

「リファさま、いえ、リファさんはアマルカでご結婚されたはずでしたよね。」

「そうですね。」

「パンジャーブにいらっしゃるのでしょうか。」

「どちらで過ごしていらっしゃるのでしょうね。」

「ご実家におられるとしたら、宮殿でしょうか。」

「リファさんは一般人ですから、動静を報道することはありません。」

「このリチャードさんとは、どういったご関係なのでしょう。」

 ニュースキャスターが全国ニュースで話している。


 始めは小さな記事だったが、彼がどこからか白馬を調達して宮殿までやってきたので、騒ぎはより一層大きくなった。たくさんの民衆が宮殿に詰めかけている。


 俺が皇室と関わるようになってから、こんなに宮殿に人が集まったのは初めてだった。

「なんか、すごいですね。」

「新年を祝うときにはもっと多くの方がいらっしゃいますし、サイファさまの婚礼の時もものすごい数の方が見にこられていましたよ。珍しいことがあると、注目を集めてしまいますね。」

 サヤさんが教えてくれる。

 俺もいつかこの人たちの前に立つ日が来るのだろうか。

「それこそ、御養子のお披露目会では大変なフラッシュになると思いますよ。」

 がんばってくださいね!とサヤさんは拳を握る。

 うわぁ、ちょっと嫌かもしれないぞ。


 リチャードは、リファの意向もあって宮殿への来訪を許された。

 謁見の間の上段にリファ。左右に皇妃、シュウトク、キョウカ、ハルシャ。

 下段にリチャード。その周りを花道のように宮廷官が並んでいる。俺はその中に紛れて、サヤさんの隣でしれっと見ていた。

「私が待っていたのはあなたではありません。」

『カワムラも認めています。僕が、アナタを幸せにしたいのです。』

「何を言っているのかわかりません。ゆっくり話して。」

 ズコーッと言いたくなる。アマルカ語はそんなにできないのか?

 語学に堪能な皇妃がリファの後ろにまわって通訳をしてくれるようだ。

『アナタを愛しています。初めて会った日のことを覚えていますか?あなたはカワムラさんを愛しているようだったけど、カワムラさんはアナタを見ていない。だから交渉した。あなたに愛を告げる許可をもらってきました。私との未来を考えてくれませんか?』

 リチャードは父親のIT関連の会社で働いていたが、将来のことはあまり考えていなかったらしい。だご、リファに出会い、リファを幸せにしたいと思った時、パワーが湧いてきたのだ、と言う。

 現在は専務として仕事を任されるようになったと言っている。ニューヨークに家を建て、そこで一緒に暮らしたい、と言った。

「カワムラさんに聞いてみないと。」

 リファはカワムラに電話をかけ始めた。

 そこへ、リファの娘のリーゼロッテがひょっこり現れる。宮廷官が見ているはずだけど。どうしたのだろう。

 にこっと笑う。かわいい。そして、その場にいた誰もが思った。

 リチャードにめちゃくちゃ似てる…。

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