第30話
「話を聞かせてくれてありがとう。若いのに一生懸命考えて、結論を出したのですね。」
皇帝は俺に向かってとても美しい礼をした。皇妃も礼をする。
俺はかなり恐縮してしまった。でも、俺をひとりの人間として尊重してくれているのを感じて、嬉しかったのも事実だ。
「ありがとう。共に、良い未来を築いていけることを願います。」
そして、朗々と続けた。
「私は、ここに、スメラギ ショウタさんをシュウトクの養子として、皇室の一員として迎えることを、宣言します。」
シュウトクの方を見ると、深く頷いてくれている。
皇帝は、俺に目を合わせる。
「今、私が、ショウタさんを、シュウトクの養子として皇室の一員にすると決めました。私が決めたことですから、もし、何かあったとしても、ショウタさんの責では絶対にありません。それだけは覚えておいてくださいね。」
意図することはなんとなくわかったので、俺は深々と礼をする。
血が繋がっているかどうかもわからない俺を、すぐに国民が受け入れてくれるかわからない。バッシングも覚悟しなければならないが、そういった言葉が浴びせられたとしても、皇帝が決定したことだから、俺のせいではない、と言ってくれているのだろう。
緊張したら疲れた。着替えて、家に戻ったが、ぐったりである。
「年明けに、正式に公表することになります。その頃には、ジングウジさまとアサヒナさまがどうなるか決まっているでしょう。ショウタさまには帝王学のプログラムが本格的に始まります。こちらが、スケジュールです。」
あ、はい、明日は何にもないですよね、と確認してから、俺は眠った。
今日は日曜で明日は祝日の月曜。何もない。はず、だ。
目が覚めたときには13時をまわっていた。
ハルシャから一件、シーファから26件の着信がある。26件?まぁいいや。
俺はシャワーを浴びてその辺にあったカップ麺を食べる。年明けから俺は皇族になるのか。いや、もう皇族なのか?こんなとこでカップ麺食ってていいのかな。まぁ、いいだろ。皇族になってもカップ麺はたまに食べたいなぁ。
そんなことを考えながらシーファに折り返す。
「おめでとう!!」
シーファは興奮気味だ。26回ともそのテンションで掛けてきていたのだろうか。
「私とハルシャも昨日、裏で聞いていたの。私、感動しちゃって!こんなに皇室のこと考えてくれてる人がいるんだって思ったら…。
私のこともゴンダに話してくれたんだって?まだ決まったわけではないんだけど、結婚しても特別皇族として残れることになるみたいの。結婚相手も子供も皇族にはならないっていうことみたい。つまり、私は公務ずっとやっていいってこと!ありがとう!あなたのおかげよ!」
「ジングウジくんも言いました、それは。」
「とにかくお礼が言いたくて電話したの。なんだかいろいろ楽しみになってきたわ。がんばりましょうね!」
26件も掛けてきた割には、な内容だったが、よかったと思うことにする。特別皇族。シーファだけだろうか。リファは無理だろうが、サイファにも声が掛かったりするのだろうか。
「お前…すごいよな。」
ハルシャはシーファと違って普通のトーンだった。
「皇族のこといろいろ知ってもなお、よくそれで入ってくるよな。特にメリットなんかないのに。」
「まぁ、俺も特にやりたいこととかなかったから、丁度良かったのかもしれません。」
「やりたいことが見つかったらどうするの。」
「そうですね…。皇族の特権をうまいこも使ってやりやすくしちゃいたいかな。」
「そんなこと、できるかよ。」
ははは、と俺たちは笑った。
「またいろいろ話そうぜ、兄弟。」
ハルシャは少し嬉しそうだった。
年が明けるまで、俺は他の候補者と同じように宿舎で過ごした。年が明けてからはハルシャたちが住んでいる離宮に住むことになる。
実家に戻って稽古もしたし、学校も普通に通っている。SPの数は少し増えたし、宮廷官から学ぶ内容も昔あった皇室絡みの血生臭い事件とか、帝王学とか、そういったものに変わった。公の場で当たり障りのないことを言うことの重要さについて考えさせられる。
三ヶ月間は俺にとっては平和だった。
養子になるということに思考が行きすぎて、水面下で様々な思惑が動いていたのに、俺は何も知らなかった。
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