第22話
たしかに、養子になった人とシーファが結婚すれば云々という話はどこかで聞いたことがある気はする。そのせいで御養子候補の年齢が重要視されている云々。
「僕たちとはちょっと年が離れすぎてるんじゃないですか?」
ジングウジくんが敬語になった。彼にとっても突飛な発言だったのだろう。
「シーファさんは養子になった人と結婚したいんですか?」
「そうよ。その方がいろいろスムーズだと思うの。」
「たしかに、そうだけど。」
「え、その、好きになれるんですか?」
「それは互いの努力次第でしょ。皇族に政略結婚なんて当たり前だと思うけど。」
当たり前ではない。現にとんでもない前例がいるではないか。
「皇室のためになるなら、私は誰とでも結婚する。でも、それがオトノキさんだったらいいな、とは思い始めてたんだろうな…。」
俺とジングウジくんは顔を見合わせた。
部屋の隅っこにいるSPたちの間でも、衝撃が走っているようだ。
俺たちの意見はたぶん同じだ。
シーファは、オトノキさんに恋をしている!!!
そして、そのことは、本人もまだ自覚してない。
宮廷官たちは大変だなぁと俺は思った。
「オトノキさんはでも、いなくなっちゃいましたよね。」
俺は事実を確認する。
「それで、アサヒナさんか、俺か、ジングウジくんかで、今は悩んでいるってことなんでしょうか?」
「うん。悩むっていうか、そうなるともうアサヒナさんしかいなくなっちゃうよね。アサヒナさんは私のこと結構意識してくれてるし、いいと思うんだけど、ちょっと、なんか…。」
それは、生理的に無理ってやつなのではないでしょうか?
「ちょっとアレなアサヒナさんとでも、シーファさんは結婚していいと思ってるんですか?」
「いや、だから、2人に…。」
シーファは言葉を濁した。
俺たちは何も言えない。ジングウジくんが言ったように、俺たちはまだ高校二年生で、シーファは20代後半。俺たちが結婚を意識し始める頃には、シーファはとっくに三十路に突入しているだろう。
「そ、それは、どうしてそんな話に…?」
「私からゴンダに提案したの。」
シーファは言う。
「私はずっと、自分に何ができるかを考えていたの。物心ついた頃から、私が男だったら良かったのにってずっと思っていた。女は皇位も継承できないし、結婚と同時に皇室を出る。女性宮家ができればいいけれど、リファのことがあってその話も下火になってしまった。皇帝の仕事や矜持を、父や祖父を側で見てきたのはたぶん、私なの。大学でも皇室の歴史のことを勉強したし。ハルシャよりも、たぶん、私の方が、詳しい。そして、私のポテンシャルを引き出すために最善の策が、あなたたち養子の誰かと結婚することだと思ったの。そうすれば、義妹として皇帝になったハルシャを支えられるし、養子の人たちも少しは後ろ盾が大きくなって、国民からも受け入れてもらえるかなって、そう思ったの。」
シーファは真剣だ。
真剣に考えた結果、自分の気持ちという最も無視してはいけないものを無視している。
自分でも気付かないうちに。
俺は、「本物の皇族」というか、皇室のためにそこまでするんだというか、「滅私」。そういうものに初めて触れたような。そんな、畏怖の念を覚えた。
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