第23話

「結婚とかの話は一旦置いておきましょうよ。そんなすぐ答えが出せるものでもないし。な?」

 俺はそう言うのが精一杯だった。

「一旦冷静に考えましょう。何が一番いいか。」


 オトノキさんの処遇は候補から外れたことだけになった。もし本当に決まった後だったら詐欺もいいとこだが、未遂に終わったこと、オトノキさんではなく父親や伯父の意による所が多く、オトノキさん自身は知らなかったこと、オトノキさんが事実をすぐに確認して皇帝やシュウトクに謝罪をしたこと、オトノキさんの評価などが幸いしたようだ。

 ただ、週刊誌に載ってしまったので経営する会社の株は暴落しているようだ。評判等も含め、立て直すのに時間がかかるだろう。


 他の3人の候補は改めて調べられ、男系男子に連なるということは認められた。御養子選抜を再開します、とサヤさんから宣言された。


 俺は、ハルシャと仲が良いと思われているので、初めての公務見学はハルシャと一緒だった。

 ハルシャの隣でパンジャーブの伝統芸能の人形劇を見学する。有名な演目らしいのだが、何を言っているのかさっぱりわからない。事前にストーリーは頭に入れてきたので、かろうじてここはこういう場面だろうと予測がたつ。楽しみ方を知ってから来るものかもしれない。

「寝たら起こされるから気をつけなよ。」

 ハルシャはニヤッと笑ってそれだけ言った。

 怒られるではなく起こされる。俺が寝たらたぶん起こされるだけじゃ済まないよ…。

 終演後、偉そうなおじいさんが挨拶に来て、少し話した。

「人形劇は初めてでしたかな?」

「はい。人形に本当の心があるみたいで、引き込まれました。」

「おぉ、それは嬉しゅうございます。人形をご覧になりますか?」

 そこまで興味はなかったが、劇に使われた人形を見せてもらった。動かし方や仕組みなども細かく教えてくれた。顔が変わるギミックなど300年前からあるとは思えない技術で、わりと面白かった。

 ハルシャはその辺の話は聞かず、帰りたい顔をしていた。わかりやすい。


「いやー、よく聞けるな。僕より向いてるんじゃない?皇帝。」

 宮殿でおやつを食べながらハルシャが言う。

「全然知らなすぎたからさ、普通に感心しちゃったよ。なんで昔の人たちってあんなすごいもの作れたんだろうな。そんな想像力なくね?」

「僕は寝ないだけで感謝してほしいと思ったね。」

「ハルシャが好きなものとかは何なの。」

「うーん…。最近はあんまり言わないようにしてるんだけど、虫が好きなんだよね。」

「虫?」

「みるか?」

 ハルシャはズズーっと余ったコーヒーを飲みきり立ち上がった。

 案内された部屋は標本がびっちり並んでいた。

「宮殿の周りにいる虫は一通り捕まえて標本にしたんだ。すごい自然が豊かだろ?すごく沢山虫がいるんだ。これなんか珍しいやつだよ。」

「でかっ!こんなトンボ見たことない…。」

「え、オニヤンマ見たことない?嘘だろ?今度捕まえに行く?」

「え?うん、いいけど。」

 虫について熱く語るハルシャは人形劇について熱く語ったおじいさんと同じ目をしていた。

 俺にはここまで熱くなれるものがないので、すごいなと思う。

 人形劇も虫もそんなに興味はないけど、知らないことを知るのは面白い。

 ハルシャのビオトープまで見せてもらって、夕食も一緒に食べたがその間ハルシャはずっと虫について語っていた。

「ショウタが聞き上手だから悪いんだぞ。」

 ちょっと語りすぎたと思ったのか、ハルシャは少し恥ずかしそうにしていた。

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