第20話

「人生ガチャ失敗したんだよ、こんなん罰ゲームとしか思えないよ。僕は。」

 宮殿の入り口まで来てくれたハルシャが、去り際にするっと言った言葉だ。仮にも次の次の皇帝になる予定の人間に、こんなことを言わせて良いのだろうか。

 皇帝だって、皇族だって、好きなことをする自由や好きな人と結婚する自由はある。それで失敗したって、自分の人生なのだしなぁ。国民からあーだこーだ言われる筋合いはない。本来ならね。ただ、国の顔という側面はあるからなぁ。うーん。

 世の中っていうのはなかなか難しい。俺にできることは何だろうか。俺のすべきことは。

 とりあえず、ハルシャのように、仲良くなることだと思う。リファとも、シーファとも、シュウトクやキョウカとも。皇帝や皇妃はちらっとしか見たことない。サイファは一度も会わないな。でもそれが普通なのかも。

 ていうか、リファはなぜいるんだ。カワムラとは別れたっぽいよな。あれだけの騒ぎを起こして別れるのもなかなか大変だろうと思う。まぁ、俺は最近まで何も知らなかったんだけど。

 ごちゃごちゃ他人のことを考えていたら、リンと別れたことを思い出さずに済む。俺はごちゃごちゃ考えながら眠った。



「ショウタさん、少し公務をやってみませんか?」

 翌日、サヤさんから声をかけられる。

「他の候補者の方も、皇族の方と一緒に、見学というか、視察など簡単なことからやっていきましょうということになりまして。」

「まだ選ばれてもないのにですか?結局いつ決まるんですか?」

「ああ、えっと、そうですよね…。」

 サヤさんはもじもじした。

「なので、まぁ、無理にとは言えないんですけど。あの、任意というか。もし、やってみたければーくらいの感じ?」

 よくわからないけれど、早く俺たちを「使い物になる」ようにしたいのだろう。でも、それだと公務をさせる候補者を、4人とも養子にしようとか、そういう風にならないか?

「正直なところそうなんです。」

 サヤさんは涙目で白状した。

「それだけ皇室には人が足りないんです。」

 さすがに、4人は多くないか、と俺は思った。

 せめて2人とかじゃないと…。

「その辺のことが大丈夫そうなら、俺はやりたいですけど。」

 と適当な返事をした数日後、事件は起きた。いや、起きていた。



 ーオトノキは民間人、金銭目的か?!ー

 週刊誌や新聞にそんな見出しが並んだ。

 オトノキさんがシーファと一緒に福祉系の公務に参加した直後のことだった。

 オトノキ家は皇帝との血縁関係にない、ということである。もちろん、御養子選定の際に宮廷官がその辺りのことはかなり詳しく調べているはずだが、オトノキさんが証拠として出してきていたのは偽造されたものである、ということだ。

 オトノキさんの伯父は大手家具メーカーを経営しているのだが、経営が悪化しており、金銭が必要だったのではないか、と書かれている。

 御養子に選ばれると、親や家族には謝礼金として8000万円が支払われるそうである。


 親父から聞いたら俺は3000万円らしいので、この記事は盛っている。5000万円も。俺はそう思った。

 御養子教育は一旦全てが中止になり、俺たちはSP付きで学校生活をするだけになった。でも、俺にもマスコミが付き纏うようになり、何度かオトノキさんについてどう思うかマイクを向けられた。

「基本は無視して、どうしても何か言わなきゃいけない時は、当たり障りのないことを言ってくださいね!お願いします!」

 サヤさんはそう言うが、当たり障りのないことを言わせるためにはきちんとした説明をするべきだと俺は思う。

「記事はおそらく事実なんです。謝礼金は基本的にそれまでにかかった養育費に色をつけてお渡しするのですが、オトノキ家はオトノキさんの養育費がたくさんかかったことを主張してきていて、他の方よりも多くなっていたんです。」

「え、俺と5000万円も違うの?」

「オトノキさんは大学も出ていて、大学院も出てあて、さらに留学とかしてますから。」

 えー!盛ってるわけじゃなくて事実だったんかーい!

「それに、28代前の皇帝の血縁者ということだったのですが、証拠が家系図しかなくて…。専門家に見せた上で打診してたんですけど、専門家ごと抱きこんでいたみたいで…。」

 宮廷官に隙がありすぎないか?

 大丈夫かな?パンジャーブ。

 俺はいろんな意味で心配になった。


 オトノキさんと会う機会はその後なかった。

 けっこう話がわかる人だなと思っていたのに。アサヒナさんより余程。

 まだ、選定の終わらぬうちに、候補者は3人になってしまった。

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