第19話

 ハルシャはなぜこんなに自己肯定感が低いのか。

 それにはいくつもの理由がある。

 まず、25歳近くまで素晴らしい素晴らしいと言われ、ハルシャの目標でもあったリファが、結婚のことで手のひら返しのように評価が地に落ちたことだ。姉のようになれ、姉のようになれ、と言われていたものが、姉のようになるな、と言われ始める。これはかなりきついと思う。

 そして、シーファである。現皇帝の娘シーファとハルシャは3歳違い。シーファは今も昔も変わらず、皇族としての模範を貫き、女皇帝でもいいんじゃないかと思わせるような人気ぶり。彼女と比べられるのはかなりくるものがあると思う。

 ハルシャは大変だなぁ。と他人事のように思ってしまう。

「たしかに、なにかにつけて人と比べられるのは嫌だよね。」

「そうなんだよ…。」

「でも次期皇帝ってかっこよくね?ハルシャしかなれないんだぜ。」

「それは、そう。それは。」

 ハルシャは笑い出した。

「なんにも権力ないけどな。」

「いい家住めるし?」

「そんだけ。」

「家事もしなくていいじゃん。」

「それはそう。」

「好きなことばっかできるじゃん。」

「それはそうでもない。」

「たしかにー!全然いいとこねぇじゃん皇帝とか」

 気付いたら辺りは真っ暗で、ごろんと横になると星が見えた。

「窮屈なことばっかりだよ。本当に。」

 ハルシャもゴロンと転がって、星を見上げる。

 宮殿の周りは都会だけど、都会の光は全く感じられない。

 木々の間にキラキラと星が見えた。

「なんか、久々に喋った気がするわ。人と。」

「友達いないの?」

「んー。いたけど、大半は俺が調子乗ってた時期に離れてった。」

「残念だね。」

「お前こそ、残念だったな。次は皇室に入ってもいいっていういい女見つかるといいな。」

「そっちこそ、皇妃になってくれる人がいるといいねー。」

 俺たちは一しきり笑った。

「暗殺されたりして。な。」

「え?誰に?」

「お前らの誰かに!」

 あはははははと俺たちはまた笑った。


 SPが「あの、そろそろ夕食が冷めてしまうお時間ですので。」

 と言いに来て、俺はハルシャと夕食を食べに行った。

 以前とは違って、シュウトクもキョウカもいなかったし、出てきたラーメンは普通においしくて、空気も悪くならなくて、楽しかった。

「次は豚骨でお願いしまーす!」

 と言うと、シェフのイトウさんは親指を立ててニコッと笑った。



「まさか、ハルシャさまとあんなに打ち解ける方がいらっしゃるとは。」

 サヤさんはびっくりしていた。

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