第17話
ミズホが不安がっていたことは、俺にとってはそう大した問題ではなかった。親父に二、三確認して、ミズホも納得した。俺たちにとっては、それだけのことだった。
記事が出たので隠すこともないだろう、ということになり、俺、ジングウジくん、オトノキさん、アサヒナさんが「御養子候補4名は現在、資質を高めたり歴史を学習したりしていることを宮廷官が認めた」という記事が出た。
俺たちは宮廷の敷地内にある宮廷官の宿舎に一時的に引っ越すことになった。他の候補者がどの部屋かは知らされていないが、宿舎のどこかで、俺と同じように24時間SPに囲まれている生活をしている。さすがに同室ではないけど、俺の左右の隣はナカイさんとサヤさんが住んでいる部屋である。
学校もここから通って、ここに帰ってくることになる。宮廷官にとってはとても都合が良いらしく、勉強や礼儀作法は大体覚えたし、宮廷図書館で借りた本もここなら持ってこられるので、読んで過ごしたりしている。
そんなことをしているうちに、8月も終わりに近付いた。
夏休みも終わろうとする頃。
俺はSPに遠巻きに囲まれながら、リンとデートをした。
「なんか、全然2人っきりじゃないんだね。」
「俺たちのことはいないものと思っていただいて構いません。」
ナカイさんはそう言うけど、いないもの、なんて思えるわけがない。4人いる俺のSPは俺とリンが座っているテーブルを少し遠巻きに囲むようにして立っているのだ。
「壁だと思うといいかもよ。」
「でも、普通壁がないところに壁があると、中が気になるんじゃない?ほら、みんなちらちら見てるよ。ショウタはもう慣れた?」
「いや、全然慣れないよ。普通に嫌だ。」
俺はため息をつく。
「今日だけはなしにしてって頼んだんだけど、例の記事が出て、無理になった。」
「じゃあさ、やめちゃったらいいんじゃない?皇帝の養子になるのなんて。」
リンの言葉に、返す言葉が出てこない。
「一生、こうかもしれないんでしょ?プライバシーとかなくなっちゃってさ、ゆっくりデートもできないよ。」
それにさ、とリンは続ける。
「ショウタは私のこと好きだから付き合おうって言ってくれたのかなって思ってたんだけど。」
「そ、そうだよ。好きだから付き合ってる。」
「ふーん。」
「だったら、私のこともうちょっと考えてくれないかな?」
リンは言葉を切った。
「私、ずっと考えてたんだよね。ショウタが養子になったら、私と付き合い続けられるのかなぁって。未来の皇太子?でしょ?」
「そ、そりゃ、いつかは皇太子妃が必要になるし…。」
「うん。でも私は皇太子妃にはなりたくないな。」
にべもなくリンは言った。
「キャリア積めなくなるし。」
たしかに、リンはバイタリティー溢れる女である。予定はだいたい3ヶ月先まで埋まっていて、やりたいこと、会いたい人が常にいる。
「私、国連とかで働きたいなって思っててね、この夏もボランティアとか結構行ったんだ。」
「そっか…。全然知らなくて、ごめん。」
それしか言えなかった。
「いいの。私が言ってなかったんだし。忙しそうだったからさ。」
俺ばかりが話を聞いてもらっていたのかもしれない。そもそも話をする機会が足りなかったのかも。
俺の頭の中は反省する言葉ばかりだった。
「だからさ、本当に皇帝の養子になるなら、私はショウタとは付き合えないんじゃないかなって。」
マジか。
いや、そうだよな。
普通、そうかもしれない。
それで、俺は?どうする?養子になることは、まだ、決まったわけじゃない。
降りることも、たぶんできる。本気を出せば。
リンのために、降りる?
「俺さ、」
気付いたら、言葉が出ていた。
「この一ヶ月、皇室のこと結構勉強した。全然知らないことばっかりだったけど。それで、今は皇室史上初くらいの後継者問題があって、それに俺は一枚噛むことになった。最初はわけわかんなかったけど、今は、ちゃんとわかって参加している。」
息を吸う。
後悔しないか?
絶対に?
わからない。でも、今の俺の気持ちを伝えることが誠意だと思う。
「俺は、皇室の歴史は無くしたくない。ここで、途絶えてほしくない。そのために、俺にできることがあるから、協力している。」
リンは俺の目をじっと見つめている。
「俺は、ここまできたら、最後まで協力したいと思ってる。リン。ありがとう。何もできなかった彼氏で、ごめん。」
リンはだろうね、と笑った。
「フヒヒ、ショウタはそういうやつだ。」
「でも、もし、どっかで気が変わって、リンが俺のこと支えたいって思ってくれるなら、」
「はい、そこまでー」
SPを掻き分けてケンショウがやってきた。
そういえばSPいたな。全然忘れてたわ。
「ショウタ、リンのことは俺に任せな。」
ケンショウは突然言った。
「これで晴れてフリーだろ?リン。ずっと好きだ!俺と付き合ってくれぇー!!」
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